複業するなら「自己管理能力」が必須
私は複業のマッチングプラットフォームを運営している会社の代表として、複業実践者や複業人材を採用する企業の経営者とコミュニケーションを取る機会が日々多くあります。
その中で気付いたことが複業にも危険サインがあるということです。
オンライン化が進み、複業に挑戦しやすくなった現代だからこそ、自身のキャパシティを超える業務負担がかかったり、案件過多になり自身のストレスの限界を超えてしまったりする危険性も大いに孕んでいます。複業は基本的にプライベートの時間で実施する活動です。当然ながら、自分の責任の中で行わなければいけません。
複業が簡単にできるようになったからこそ、複業に挑戦するすべての人に必須のスキルがあります。それは、「自己管理能力」です。もはやスキルとして考えていただいて良いでしょう。
自己管理とは、「①タスク管理」「②生産性向上」「③心身の健康管理」という三つに分類されます。
①タスク管理:本業も複業も「仕事の漏れ」があってはいけない
1つ目のポイントは「①タスク管理」を徹底することです。
複業とは「本業も含めた複数の居場所で、複数の目的を達成するために行う仕事」です。当たり前のことですが、どちらかを疎かにしてやるものではありません。いずれかが中途半端になるとどちらにも熱が入りません。また、仕事における組織への貢献度合いは「プロセス」ではなく目に見える結果という「アウトプット」で測られます。
複業も同様です。複業先の期待する結果を出し続けることが複業を長続きさせるための秘訣です。本業では昇給・昇格などで評価されますが、複業では契約の更新や単価の向上につながるでしょう。その中で、日々のタスク管理が安定的な結果を出し続けるために重要になります。
タスク管理の方法はさまざまですが、自身に適したツールを見つけ、自分に合ったタスク管理方法を身につけながら、本業も含めた全ての仕事の漏れがないように行う必要があります。複業先を多く掛け持ちする場合はなおさらです。
デジタルツールを駆使するのも1つですし、付箋で管理するなどやり方はたくさんありますが、脳内で記憶する、という管理方法では必ずタスク漏れが発生するため避けましょう。
そして管理のポイントとしては、タスクすべてに、優先順位、期日を漏れなくタグ付けすることです。ぜひ、自分にあったタスク管理方法を見つけてみてください。
②生産性向上:生産性を上げるための「マイルール」を整備
2つ目のポイントは「②生産性向上」です。リモートワークが導入されたり、オンラインでのやりとりが増えたりするなど、働き方が大きく変化し、効率的に働ける環境下になったことが、逆に個人の課題となるケースもあります。
それは、プライベート空間で会社の業務を行うというある種の公私混同により、業務とプライベートの境界線が曖昧になることです。長時間労働の危険性が増え、生産性が下がってしまう可能性があるのです。
リモートワークが導入された企業でも、生産性が上がったと感じる人もいれば、下がったと感じる人も多くいるでしょう。
これは複業においても同じことが言えます。複業はあくまでプライベートの時間で複業先の業務を担い、自己責任のもとで行うものです。
極端な例を挙げると、プライベートの時間の中で、寝食を忘れて働き続けることができてしまいます。そうならないよう、いかに生産性を上げながら自己管理するのかが重要です。
実は、このような課題に対して、対策を打ち出す企業もあります。しかし、企業がルール設定するケースは少数派であり、複業をしている人はなおさら、企業が環境を整えることを待つだけではなく、自分自身で生産性を上げていく「マイルール」を整えることが重要となってきています。
例えば、集中したいときは必ずSNSなどの通知を切る、複業は必ず土日で行うことにする、などマイルールを決め、その中でメリハリのある生活を送ってみてはいかがでしょうか。
③心身の健康管理:「不幸せな複業」を招かないために
3つ目のポイントは「③心身の健康管理」です。心身の健康管理が実は複業の自己管理能力において非常に重要なことです。実際、複業には不幸せなケースも存在します。それは、本業でパフォーマンスが上手く上がらない、本業で何か大きなストレスを感じている中で複業をはじめるケースです。
本業から逃げるという選択肢は、悪いことではありません。時には逃げることも大切です。しかし、本業で心身ともに参ってしまったときに、同時並行で複業を目指すこと、心身ともに健康でない状態ではじめる複業は、新しい環境によるストレスを増幅させるなど、リスクが大きく、本当に幸せな複業ではないのです。
また逆のパターンで、本業の調子は良いものの、複業での調子や関係性が思うように行かないというような、複業によってストレスに感じるケースもあり、それも同じく本業に悪影響を及ぼす危険性が高まってしまうため、精神衛生上好ましい状態ではありません。
また、不幸せな複業を招いてしまうケースとして、複業が当初の想定より多忙になってしまい、タスクとプレッシャーに追われてしまうことがあります。
本業と複業のタスクを自身のキャパシティ以上に抱えてしまい、常に頭の中はタスクに追われるという「脳内カオス」が発生し、それをストレスに感じるという最悪のサイクルは実際によくある心身の不調を引き起こすトリガーなのです。
このようなサイクルに陥ったとき、もしくは自身の性格的に陥る可能性があると思われるときは、まず本業に専念し、タスク管理能力や生産性を高めた上で複業に挑戦する方がよいでしょう。
また、補足にはなりますが、複業の報酬額が自分の思うスキルや経験に不相応な場合も不幸せな複業になる可能性があります。不相応とは、低すぎる報酬はもちろん、その逆の高すぎる報酬という視点も含まれます。高すぎる報酬は、その金銭報酬に見合ったアウトプットを出さないといけないのではないか、見合うアウトプットを出していないのではないか、というストレスになりかねません。
複業の金銭報酬の金額設定は当事者間で行うケースがほとんどです。転職では現年収という1つの基準がありますが、複業における単価相場は世の中に正解がありません。初めての複業だと本当に手探りです。
また、スキルや経験は、その時の市場価値や企業の人材不足や該当する課題の深さによってボラティリティー(価格変動性)が発生します。複業の面接では、適正金額という面でしっかりと話し合った上で、自分がストレスを受けない程度の報酬を受け取るようにした方が良いでしょう。
目先の金銭報酬に目が眩んでついつい高めに設定してしまうと、企業はもちろんその金額の分だけ期待をし、アウトプットを求めます。受け取る複業の金銭報酬と企業の求めるアウトプットと期待値は必ず面談時に確認し、複業をはじめてからトラブルにならないよう、過度なストレスがかかることのないよう気をつけましょう。
複業は「本業+αでできるタスク量」を見極めて選ぶ
タスク管理と生産性向上という能力を高めることで、自然と心身の健康管理にもつながります。結果的には複業で必須の自己管理能力を上げることができるでしょう。
大前提として、自身のタスクや時間のキャパシティを超えた案件数を抱えないというのが複業では鉄則です。
自身の限界や性格を理解しながら本業+αでできるタスク量を見極めて、複業先を選びましょう。結果としてまだキャパシティに余裕があるのであればさらにもう1社複業先を増やすといった柔軟な複業をすることが大事です。
大林 尚朝
複業エバンジェリスト
株式会社Another works 代表取締役
1992年生まれ、大分県出身。早稲田大学法学部卒業。
2015年、パソナグループ入社。顧問やフリーランスなど業務委託人材紹介の新規事業に従事。年間最優秀賞など多数受賞。2018年、株式会社ビズリーチ(現.ビジョナル株式会社)入社。M&Aプラットフォームの事業立ち上げを行う。
2019年、株式会社Another works創業。複業したい個人と企業や自治体を繋ぐ、成功報酬無料の総合型複業マッチングプラットフォーム「複業クラウド」を開発・運営。創業4年で累計1,000社以上が導入、50,000名以上が登録、70自治体以上と複業での地域活性に係る連携協定を締結、テレビや新聞など400件以上の掲載実績を誇る。
複業、経営・組織戦略、キャリア構築、地域活性をテーマに発信し、行政や教育機関をはじめ100件以上に登壇、「日本経済新聞」など多数のメディアでも取り上げられている。