(※写真はイメージです/PIXTA)

「家族信託」は本当に認知症対策に有効なのか─。手続きや費用、また成年後見制度と何が違うのでしょうか。後藤光氏が代表を務める株式会社サステナブルスタイルが運営する、相続・終活に関する情報を発信するwebサイト『円満相続ラボ』の記事を一部編集してお届け。いざというときに慌てないために、「家族信託」についてわかりやすく解説します。

手続きが簡単

財産を委託したい人(委託者)と、信頼できる家族(受託者)の合意の下で信託契約が成立します。契約の際、行政機関や裁判所の関与は必要ありません。ただし、家族信託契約締結の際は契約書の作成が必要です。

 

契約書の内容は自由に記載できます。しかし、信託の目的・何を信託財産とするのか・誰に信託するのか・管理方法について明記しないと、家族信託を有効に活用することが難しくなります。

 

柔軟な財産管理を設定できる

家族信託の場合、委託者が元気なうちは委託者本人の意思を尊重し、判断能力が衰えたときは受託者の判断で効率的に運用していくことが可能です。また、委託者本人の財産の譲渡先を細かく指定したり、遺言書においても相続の内容を指定したりすることが可能です。

 

例えば、本人の財産を引き継いだ人が亡くなった際、誰に財産を譲渡するか、どのように処分するか等、2次相続以降の指定方法まで柔軟に設定できます。

 

家族信託を有効活用した事例

高齢となった父親Aは市道沿いに所有する土地上に賃貸マンションを建てて不動産賃貸業を行っていました。しかし、将来的には当該市道の道路を拡張するという市の計画が判明しました。

 

市からいつ道路拡張の話があるかわからず、判断能力が欠如する前に、何らかの対策をとっておくべきとAそして娘Bが考えるようになりました。

 

そこで、次の内容で家族信託を締結することになりました。

 

・委託者・受益者:父親A

・受託者:娘B

・信託財産:拡張計画のある市道に面する一筆の土地

 

その結果、Aが認知症等で判断能力を失っても受託者であるBは引き続き、拡張計画のある市道に面する一筆の土地の管理や処分を行うことができるようになりました。

 

今後はいつでもBがAに代わって市側と交渉し、信託した土地の売買契約をすることが可能です。

家族信託の手続きは認知症の発症後でもできる? 

家族信託は契約により利用できる仕組みのため、認知症等で判断能力を失った後は、原則として信託契約を締結することはできません。しかし、契約が有効となるケースもあります。

 

ここでは認知症を発症しても、契約の成立が期待できるケースについて解説します。

 

公証人が契約内容を理解していると確認できた場合は可能

公証人とは事実の存在や契約等の法律行為の適法性を、証明・認証する公務員のことです。この公証人が、財産を託したい人が契約内容をしっかり理解している、と確認した場合に家族信託の契約締結ができます。

 

ただし、認知症を発症した後に締結する家族信託は、健康な時よりも判断能力が低下した状態で行われます。認知症発症前の家族信託と比較すれば、契約の有効性が争点となるトラブルも発生しやすくなるはずです。

 

そのため、なるべく健康で判断能力が正常なうちに、家族信託の契約を進めておいた方が無難です。

 

家族信託の締結は問題ないと認められた事例

高齢の叔母Aには配偶者や子がなく、姪Bがこれまで金銭等の管理をしていたものの、最近は叔母Aの物忘れが目立つようになり、記憶があやふやになることが度々ありました。そこで財産管理をより徹底させたいとA・Bが考えるようになりました。

 

公証人はAが契約締結に必要な判断能力を有すると認め、次の内容で家族信託を締結することになりました。

 

・委託者・受益者:叔母A

・受託者:姪B

・信託財産:土地・住居・預金

 

その結果、Aが認知症等で判断能力を失っても受託者であるBは、引き続きAの自宅の管理・処分、預金を使ってAの治療費・施設費等の支払いが可能となります。

 

更に、Bは他の親族から私的流用を疑われないようにするため、まず公証役場で家族信託の契約書を公正証書とし、契約書の証拠能力を高めました。

 

そして、銀行で信託のための口座を作成しました。これでBの預金と、Aの信託のための預金を明確に分けて管理することができます。叔母Aも他の親族も、この対応に異を唱える人はいませんでした。

次ページ“家族信託ができない認知症”の場合はどのように財産管理すれば良い?

※本記事は、株式会社サステナブルスタイルが運営する相続・終活に関する情報を発信するwebサイト『円満相続ラボ』からの転載記事です。

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