子育てが落ち着いて、自分に余裕が生まれてくると、これまでのことも許せなくなって来たと陽子さんは言いました。そして、陽子さんは正式な依頼を決心し、私は浮気調査を決行することにしたのです。
調査日は、ご主人が「休日出勤」と言って外出する日。陽子さんはご主人の休日出勤が増えたことで、今回の浮気を疑い始めたのだそうです。
調査当日、私は家を出るご主人の尾行を開始しました。尾行を始めてすぐ、ご主人の休日出勤が嘘であることがわかりました。
会社とはまったく別の方向に向かい、すぐに女性と接触したのです。2人は食事を楽しんだあと、まっすぐホテルの中に消えていきました。
これで、ご主人の浮気ははっきりしました。
私は、浮気相手の顔や2人が食事をしている姿、ホテルの入りと出までの姿を写真でしっかり抑え、相手の名前と住所も調べあげ、それを報告書に載せ、陽子さんに提出しました。ここまで揃えれば、浮気相手に慰謝料を請求することも容易です。
「やっぱり、浮気してたんですね」
私からの報告を受けた陽子さんは悲しそうに、どこか呆れたようにつぶやきました。
「でも、はっきりして良かったです。これでとっちめてやります」
数日後、陽子さんから私のもとに電話がかかってきました。私たちの調査報告書を突きつけて問い詰めたところ、ご主人は浮気を認め、「浮気相手とはネットで知り合った1度だけの関係で、離婚してまで一緒にいるつもりはない。妻や家族のことが一番大切だ」と反省したのだそうです。
新たに芽生えた不安
しかし、ここで陽子さんにまた不安が芽生えました。
「あの人がまた同じことを繰り返すんじゃないかと思うと不安で……」
そこで私は行政書士を紹介し、公正証書をつくることを提案しました。今後、浮気はしないという誓約書をご主人に作らせるのです。
陽子さんは行政書士と相談し、ご主人に誓約書を作らせ、それを公正証書としました。
その内容は、次のような厳しいものでした。
『もし、また浮気をしたら即離婚。さらに慰謝料として500万円を支払う』
これが功を奏し、ご主人はその後すっかりおとなしくなり、陽子さんの顔色をみて家族サービスまでするようになったといいます。
しかし、それでも陽子さんの不安は消えませんでした。
夫へ「親の財産2分の1」が渡ってしまう…
今回のことで、ご主人を許せないと思うようになった陽子さんは、自分にもしものことがあった時、親御さんから受け継いだ資産をご主人には絶対に渡したくないと思ったのです。親御さんから財産を受け継いだあと、陽子さんがご主人より先に亡くなるようなことがあると、配偶者であるご主人に財産の2分の1が渡ってしまうといいます。
「それは絶対に許せないんです」
その言葉を聞き、私は相続診断士の資格を有する当社の相続調査部での面談を陽子さんに勧めました。
その後、面談を受けた陽子さんは、適切な専門家による助言のもと、遺言書の作成、保険受け取り先の変更、自宅の登記変更などを行いました。
陽子さんが亡くなった後、その遺産は長男・長女がすべて相続することとし、その遺言を公証役場の公証人によって作成される公正証書遺言とすることで、より確実に相続が行われるようにしたのです。
これらのことはすべてご主人には秘密にしたまま行いました。もし、ご主人が本当に「遺産目当て」だったのなら、陽子さんに何かがあったとき、とても悔しがることでしょう。
こうして、陽子さんはすべての不安を解消することができ、心の平穏を取り戻しました。そして、私に相談してよかったと言ってくれたのです。
後藤 光
株式会社サステナブルスタイル 代表
若梅 秀孝(わかうめ ひでたか)
MJリサーチ綜合探偵社 取締役