米国が銀行危機に至った「背景」
さて、本稿では、今回の銀行危機の「きっかけ」について、言い換えれば、なぜ、米国の銀行は、保有債券に巨額の含み損を急速に抱えることになったのか、その背景について考えてみます。
話は大きく、次の2つに分かれます。
1.保有債券の含み損急拡大の要因;「参考人」のなかから「犯人」を割り出す
2.住宅ローン担保証券(MBS)とは;ワクワクする特性
1点、ずっとお伝えしているように、次に挙げる3つの理由から、保有債券の含み損については心配する必要はありません。せっかくの機会なので、筆者自身のメモとしてもまとめておこうというのが、本エントリーの趣旨です。
1.利下げが起きれば、価格・収益性ともに回復します。
2.満期まで持てば、満額で償還されます。
3.仮に、今後、預金の取り付けが生じる際は、米連邦準備制度理事会(FRB)による流動性供給(=市中銀行が持つ国債・MBSなどの優良資産を担保にした貸出)によって、「投げ売り」(=売却損の計上=含み損の実現)は回避されます。
住宅ローン市場で起こった「60年超ぶり」の出来事
なぜ、米銀の債券含み損は急増したのか。答えは[図表1]のなかにあります。
[図表1]は、米国の住宅ローン金利を示しています。【青色】が30年固定金利の住宅ローン金利、【緑色】が15年固定金利の住宅ローン金利です。大事なのは、【オレンジ色の点線】で、これは、【青色】で示した30年固定金利の住宅ローン金利の「15年移動平均値」です。
[図表1]を見ると、ここにきて、1980年代以来初めて、30年【青色】と15年【緑色】の住宅ローン金利がいずれも、30年の住宅ローン金利の移動平均値【オレンジ色】を上回ったことがわかります。
30年の住宅ローン金利は、データが1971年からしかないため、[図表2]で米国の長期金利を見てみると、長期金利【青色】は1955年~1960年頃に、その「15年移動平均値」【オレンジ色】を明示的に上回っています。
今回起きた事象はそれ以来ですから、「60年超ぶりの出来事」です。そのくらい久しぶりの出来事なので(「笑って許して」とは言いませんが)債券市場や銀行の経営に与えるインパクトも大きかったと考えられます。