祖父母の育児参加率が高まった背景とは
子どもが一人しかいないから、家庭で手厚く保育することが増え、両親だけでなく、祖父母も育児に協力するようになった。改革開放以降、幼稚園と託児所等の数が減少し、祖父母や親戚などの援助で育児するケースがさらに多く見られる。
近年、中国の都市部においても農村部においても孫の世話をする祖父母がますます多くなった。こういった祖父母の育児参加率の高さは、社会、経済の劇的な変化、および中国の独特な文化がもたらしたものかもしれない。
女性の有業率が高い中、仕事と育児のバランスをとるのが難しく、十分に子どもの世話ができなくなったといえる。
このような状況では、祖父母が一番良いサポーターとなる。現在、特に中国の「80後」と「90後」(1980年代、90年代生まれの中国人の若者達)がほとんど一人っ子世代で、仕事と生活の両方からプレッシャーを受け、親からの育児支援を求めるしかない。
また、一人っ子親世代は、小さい頃から過度な愛情の下で育てられ、生活能力が低下しているといわれている。成人して子どもを産んでも、生活面において親への依存度が高いという特徴がある。
よって、祖父母の育児支援がより一般的になってしまうのである。さらに、日本と同じように、中国でも古くから、孫は「目の中へ入れても痛くない」かわいい存在であり、祖父母にとって孫との交流は幸せなことだと考えられている。
これも祖父母が孫の育児にかかわる要因のひとつになる。ほかにも、祖父母の育児参加は中国文化において社会的責任とみなされている。
多くの祖父母は定年退職後に多くの自由時間を持ち、中国の伝統的な家族観の影響を受け、孫の世話を自分の責任として捉えている。孫の子育てをすると、家族愛を感じ、一家団欒を味わえるといって、祖父母たちが積極的に子育て支援をしているのである。
さらには、多くの祖父母は子育て支援を、「当たり前のこと」だと認識し、「自分の奉仕」、「自分は存在する価値がある」と理解している(朱奕雷、2021)。
中国の祖父母育児参加に関する研究概観
上にも述べたように、祖父母が子育て支援をすることが中国で普遍的な社会現象になっている。大都市や小さな村に行っても、祖父母が孫の世話をするところがよく見かけられる。このような現象に対して、多くの研究者がさまざまな角度から研究を行ってきた。
以下はこれらの先行研究についてまとめた。
祖父母育児参加の現状に関する研究
先行研究では、アンケート調査やインタビュー等を用いて、祖父母が育児参加する現状について調査している。
祖父母育児参加の程度について
ある調査によると、都市部の三世代家族で子育てを分担する祖父母の割合は、幼児期には75.7%に達している(程香・呈航、2013)。さらには、都市部の50―70%の家庭で、子どもが祖父母の世話を受けているといった報告もあった(Jiang et al.,2007)。
中国教育協会と家庭教育専門委員会が実施した2017年の家庭調査によると、都市部の家庭において、祖父母の約79.7%が家庭の子育てを担っており、そのうち幼稚園入学前は77.7%、幼稚園時期は72.9%、小学校レベルでも60.1%の祖父母が育児に参加している(岳坤、2018)。
たとえば、上海では祖父母が子育てにかかわる割合は84.6%であり(上海教育科学研究所、2010年)、北京市教育委員会就学前教育局によると、北京の0―3歳児のうち保育所に入所しているのはわずか12%で、残りの88%のうち、少なくとも半数は祖父母によって育てられている。
さらに、都市部の祖父母が週平均14時間、孫の世話をしていることも岳坤(2018)の調査によって明らかになった。
※本稿では各調査元(研究者氏名)、調査年を()内に明記している。
矢藤 優子
立命館大学総合心理学部 教授
姜露(きょう・ろ)
東京大学大学院博士後期課程修了。博士(敎育学)。上海師範大学学前教育学院准教授
〔本書担当箇所〕第2章、第3章