本当に正しいのか?中国における“適切な体罰”…。「1回叩いたら3回肩もみをする」ことで「子供の恨みを買わない」という手法【立命館大学教授が解説】

本当に正しいのか?中国における“適切な体罰”…。「1回叩いたら3回肩もみをする」ことで「子供の恨みを買わない」という手法【立命館大学教授が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

海外の教育制度の現状を知る機会はなかなかありません。本連載では、立命館大学総合心理学部で教授を務める矢藤優子氏が、矢藤氏を含む日中の研究者による共著『現代中国の子育てと教育:発達心理学から見た課題と未来展望』から、中国の教育制度の現状と、抱えている多くの問題について一部抜粋してお届け。今回は、中国都市部の大学に通う大学生(男性3名(2名は一人っ子、1名は兄弟がいる)、女性3名(全員一人っ子))にインタビューをし、児童期における親のしつけやかかわり方について尋ねた箇所の、とくに「手を出す教育」における分類について書かれた箇所を一部抜粋して紹介します。

“手を出す”養育のあり方と家庭文化

インタビューに協力してくれた中国人大学生、6名のうち3名(男性1、男性3、女性1)は、手を出す養育のあり方に納得している。

 

これは家庭文化とは深い関係があると考えられる。

 

喬(2012)は北京市に在住している一人っ子の親を対象として行った研究において「親は子どもを叩く態度が伝統文化の影響による以外に、子どもを叩く行為の必要性と叩くことによって得られる効果を考え、“適切な体罰”という考えを支持している」と指摘している。

 

また、喬(2012)はインタビューの資料を通して、「親が子どもを叩く行為はよく見られる体罰である」が、「親は子どもの感情を気にかけ、叩くことによって親子関係が壊れることを望んでいない、子どもが“恨みを持たない”ことを前提に叩く。」と述べている。

 

また、「親子関係の損なわれることを避ける、あるいは親子関係の損ないを減少させるため、多くの親は“1回叩いたら3回肩もみをする”という手段を取り、子どもを叩いたら、その行為の理由を説明したり弁明し、すぐに親子関係を修復するようにする。」とも主張している。

 

血がつながっている親子だから、また、親が子どもとの関係が損なわれないように“1回叩いたら3回肩もみをする”という手段を用いているため、親に叩かれても叱られても恨みを持たない、“打是亲,骂是爱”(叩くのは親しいから、叱るのは愛があるから)の背景に親子関係の感情が溢れているのが見て取れる。

 

家庭内のしつけにおいて、親が体罰を与えても、その行為が親子関係や両者の感情に悪い影響をもたらさないように、愛情を示す行為や態度を示しているという家庭養育のあり方が見られる。

 

しかし、子どもを叩くなどの体罰を通して養育するというやり方は、近年批判される傾向にある。

 

邢ら(2011)は「親からの体罰は子どもの誤った行為を強制したりコントロールしたりするため、故意に傷害を生じさせず子どもの身体的な痛みを起こす行為である」と述べている。

 

たとえば、手や物で尻を叩いたり、平手打ちをしたり、体を捻ったりするといった行為が体罰としてあげられる。

 

多くの研究から親の体罰は、子どもの成長に短期あるいは長期的に悪い影響を与えることが知られている。

 

親の体罰は個体が幼少時期に家庭において身につけさせられた行為だとみられ、児童期に親の体罰を受けた個体がしつけを行う際に自分の子どもを体罰する可能性があるといわれている、と述べ、体罰が子どもの成長に影響することを強調した。

 

しかし、付(2006)は改革開放以前に子ども時代を過ごし、社会変容期である1990年代に育児の時期を経験してきた親を対象として行われた中国の都市部における子育ての特徴に関する研究から、「親子関係には、親が子どもを親の思い通りに育てたい、子どもの異議を容認できないという従来の思想が残っている。つまり、子どもが家族繁栄の責任を負ってきたという中国の従来の子ども観がまだ存在している」ことを明らかにした。

 

こういった家庭文化が現在の大学生にも影響を与えていると考えられる。

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現代中国の子育てと教育:発達心理学から見た課題と未来展望

現代中国の子育てと教育:発達心理学から見た課題と未来展望

矢藤 優子

ナカニシヤ出版

幼児教育の環境、都市部の家庭養育、農村部の留守児童・流動児童、障がい児養育……。 現代中国の子育て・教育の現状と課題を、発達心理学に基づく調査により多角的・実証的に捉えた、日中の研究者らによる最新の研究成果。

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