本稿では、筆者自身の中国での子育て経験と、研究チームが2014年から中国・上海で実施している「祖父母の育児参加に関する調査」のデータから、中国都市部における祖父母との共同育児の背景と現状、そしてその特徴が幼児のパーソナリティの発達(気質・性格や親子の愛着、社会適応)に及ぼす影響について紹介する。
祖父母の育児支援は、共働き世帯の強いサポートになっていることはいうまでもないが、様々な課題も存在していると考えられる。
社会背景「自分で育児がしたくてもできない」
中国では共働き世帯が多いにもかかわらず、1990年代以降、国の経済体制改革の影響により、3歳未満向けの保育施設が非常に少なくなった。
このように育児における公的資源が少ないため、祖父母の力を借りての共同育児(co-parenting)、または3歳まで完全に祖父母が孫を育てることが一般的である。
中国高齢化研究センターが全国の高齢者2万83人を対象に行った調査(2012年)によると、都市部の高齢女性の72.0%が孫の育児に携わっていることがわかった。
また、上海教育科学院の調査では、幼い子どもの養育にかかわる祖父母の割合は84.6%に達している。
働いている親の多くは、できれば自分で育児したいと思っているが、仕事をしないといけないため、家にいない間は祖父母に頼らざるを得ない現状である。そのため、子どもは幼稚園に入るまで祖父母と一緒に過ごす時間が最も長いとされる。
両親との時間は親の出勤前と帰宅後だけであり、親(特に父親)が忙しい場合は週末しか会えないこともしばしばある。
ベビーシッターや民間の託児所といった「育児支援サービス」を利用している家庭もあるが、ベビーシッターの労働市場は、資格などの制度が十分に普及していないため、ベビーシッターの質の低さ、責任感の欠如、流動性の高さなどによる子どもへの悪影響が懸念されている。
民営託児所も同様に整備しきれておらず、保育の質がまちまちであるため、祖父母にみてもらうのが一番安心できると共働き世代の親は思っている。
一方、現代中国における祖父母の孫育てという現象は、単に両親の共働きや保育制度の欠如といった社会制度によるわけではなく、中国の伝統文化の影響も受けている。
中国の伝統は「子々孫々」「三世代一緒」であるため、多くの祖父母は孫の面倒を見るのを喜んで手伝っている。
このような社会文化の背景の下、中国では主に、両親育児、両親と祖父母の共同育児、祖父母育児(隔代育児とも呼ばれている)の3つの養育スタイルが存在している(李・謝・宋,2016)。
岳(2018)の中国都市部における調査によると、8割近くの家庭では祖父母が子どもの養育に携わっており、その大半(93.8%)が子どもの養育に携わることを喜んでいると回答した。