無理に買わせない、説得しない
お客様との間で、推し・推されるという関係性を育てていきたいと思う際、その間柄を一気に壊しかねないのが、売り方の問題だと思います。
僕は、「ビジネス」「商業的」「マーケティング」という言い方があまり好きではありません。なぜかというと、よくそういうワードが出たときに、少しネガティブなイメージがその言葉に乗ることがあるからです。
「ビジネス」「商業的」という言葉は売る側からの視点が強く感じられ、「マーケティング」という戦略で売ることで作為的にお客様からお金を奪う、という感覚がどうにもつきまといます。
それが、僕の目指している、お客様との間での同志のような関係性とは異なるのです。
では、同志という関係性の中で行なわれる商いとは何なのかといえば、それは「ギブ&テイク」ではないかと僕は思います。
たとえば、昔のお商売には、「損して得とれ」という考え方がありました。
「去年、この人から得をとらしてもらったから、今年はこの人に得をとっといてもらおう」
「あの人に得をあげたうえで、最終的に自分たちのお商売もプラスで終わったらいいよね」
というような感覚が共通してあったのです。
もちろん、損ばかりではこちら側も食べてはいけないわけですが、これが売上至上主義になって奪うことばかりになると、「テイク」しかなくなります。
すると、不思議なもので、そういう場所からは人もお金も逃げていってしまうのです。
ですから、自分たちの生活のための売上はちゃんと確保しながらも、お客様に「得したな」と思っていただけなくてはいけません。
そのためには何が必要か――。「売ろうとしない」ことなのです。
開化堂の茶筒は、サイズにもよりますが、1万円台の中盤〜3万円台まであります。
僕としては、施している工程の数、かけている職人のエネルギーもあるので、自分たちを安く見せるのでもなく、高く見せるのでもない形が、現在の値段だと思っています。
ある人はこれを高いと感じ、また別の人は安いと感じるでしょう。
そこで、少しでも「高いな」と感じている人には買わせてはいけないし、説得しようとしてもいけません。どれだけうまく説得しようとも、それは回りまわって、お客様の中で「買って損した」「無理に買わされた」というネガティブな思いとなってしまうからです。