創業150年「手づくり茶筒」一筋の老舗の“六代目当主”が語る…商品が長く深く「愛着」を持ってもらえる理由

創業150年「手づくり茶筒」一筋の老舗の“六代目当主”が語る…商品が長く深く「愛着」を持ってもらえる理由
(※写真はイメージです/PIXTA)

明治8年創業の「手づくり茶筒」の老舗「開化堂」は、現在までの約150年間、激しい時代の変化に見舞われながらも、長くゆっくりと繁栄を続け、海外進出も果たしています。本記事では、開化堂の六代目当主である八木隆裕氏が、著書『共感と商い』(祥伝社)から、商う製品が人の心に深く長く残り、愛着を持ってもらえるための「伝え方」について語ります。

「心に貯まるもの」を生み出すコツ

たとえば、開化堂の茶筒は、水気を拭き取るなど、少しばかり取り扱いに注意がいります。でも、そのひと手間のケアが、かえって愛着を生んでいく。それはきっと、お客様を主体としたストーリーが、もう茶筒に対して始まっているからでしょう。

 

実際、茶筒を修理に持ってこられる方は、「これ、15年前に買ったんだけれども……」と、買った場所まで克明に覚えてくださっていることが多々あります。

 

対して私たちも、その持ち込まれた茶筒の状態から、お客様が使用している風景が想像できるので、お互いの話が盛り上がっていく。

 

すると、いつどこで誰が買って、修理が行なわれて、誰から誰に受け継がれた……というような、この茶筒の物柄も更新され、金銭的な価値は変わらなくても、思いが付加されて「心に貯まるもの」の価値が上がっていくのです。

 

つまり、ときには「修理」という工程だって、直接的なストーリーテリング以上に雄弁に、お客様に得難い価値やイメージを届ける伝え方になりうる、というわけです。

 

ですから、自分の商うモノを伝える文脈の中に、どうしたらお客様の生活を印象的に存在させられるのか、ぜひみなさんにも考えてみてほしいと思います。

 

たとえば、書籍であれば、ネット書店で評判を見たり、過去の傾向からAIに勧められてワンタップで購入したりするのは、たしかに効率的です。

 

でも、社会がその便利さに走れば走るほど、ふと人生に悩んだ際に立ち寄れて、「これは私のためのものだ!」と運命的な出会いをくれる本屋さんは素敵に感じないでしょうか? 今の話を読んで、久しぶりに本屋さんに行きたいなと、自分の中で本屋さんが少し印象的に存在し始めなかったでしょうか?

 

また、家電の世界であれば、「この洗濯機なら、こんなに白くなる」という宣伝が多くありますが、その伝え方だと、より白く洗えるか、安くするかの競争に巻き込まれますよね。

 

当然、商品サイクルはどんどん短くなるし、自社を推してもらえるようにもなりません。

 

であれば、各社が洗濯機の開発を頑張る中で、あえて自社の既存の洗濯機を使ってのよい洗い方や効果的な洗剤の使い方、頑固な汚れの落とし方をレクチャーして発信する。

 

もし、それがすごく使えるノウハウで、そのメーカーさんの洗濯機でしかできないニッチな機能だったら、次買い替える際も同じメーカーさんにしたくならないでしょうか? そもそも、そんな生活に親身なメーカーさんほど推したくならないでしょうか?

 

そういったことを気づかせ、感じさせてくれる伝え方が、本屋さんという場所に売りものの書籍の価値以上の「心に貯まるもの」を生み出し、消費財のメーカーさんであっても消費されないお客様との強い絆をつくる、本当の意味で印象に残る方法なのだと思います。

 

だからこそ、つくり手は自分中心になるのでなく、お客様とコミュニケーションをとっていくことが必要になります。

 

そういった考えもあって、開化堂も実演販売などでお客様と直接触れ合うことを重んじていますが、今は対面以外でもSNSやYouTubeなどでお客様とコミュニケーションをしていく手段はいくらでもあるでしょう。

 

自分の物語を商品に反映させるより、お客様の物語を想像できるようにする。そのためにも、ぜひ自分語りだけではなく、お客様の物語を取り込んでみてください。

次ページ無理に買わせない、説得しない
共感と商い

共感と商い

八木 隆裕

祥伝社

手づくり茶筒の老舗「開化堂」 創業明治8年、つくるモノは当時のままの茶筒。 ……にもかかわらず、 ●なぜ、令和の現在でもうまく続いているのか? ●ティーバッグやペットボトルの普及で茶筒がないお宅も多い中、…

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