家族のような付き合いの始まり
紅茶屋さんはティムさん夫婦で営まれていたのですが、最初は茶筒の売れ行きも穏やかで、一日中ゆったりと「僕はこういうふうに仕事をしていきたい」と言えば、「いや、それはお前こうじゃないの?」とかアドバイスをもらったりもできました。
また、お客様が来店した際には、「紅茶でも一杯淹れようか?」といった感じで、茶筒の感想やお店にきた目的なども聞きながら、ずっといろいろな話ができたのです。
そこから、ティムさんたちとの家族のような付き合いが始まっていきました。
当初から家族のような関係になることを狙っていたわけではありませんでしたが、あとから振り返って考えてみると、やはりこのとき家族のような関係への第一歩を踏み出せたことが、何よりも大きいことだったと思います。
誰を通じて、どこから海外に入っていくか
ポストカード・ティーズさんでの最初の実演販売は、お店の5階に寝泊まりしながら、9日間の実演販売をする形でスタートしました。
実演販売というのは、その場で茶筒の製作の一部を見せて、集まっているお客様に使い方を説明しながら、販売を行なっていくものです。
もちろん、店内でやるわけですから、火を使って金属を加工する作業はできません。披露するのは、バラバラになったパーツを木槌(きづち)や金槌で叩いて組み上げる作業のみです。ただ、購入してくださったお客様には、サービスでプレゼントする茶匙(ちゃさじ)に名前を彫らせてもらいました。
とはいえ、日本から持ち込んだ工芸であり、お客様は日本茶ではなく紅茶を飲む人々。四角い紅茶の缶が主流のお国柄です。
値段が100ポンドくらいする丸い茶筒なんて、手に取ってもらえないんじゃないか?
一体どのくらいのお客様が、これを買ってくれるのだろうか……?
はじめての海外実演において、僕にはそんな一抹の不安がありました。
しかし、結果は1週間で100万円以上の売上――。
「開化堂の茶筒は、世界に通用する商品なんだ!」
このとき、僕はそう確信したのでした。
ところが、その次に行ったパリの百貨店さんで、僕は大失敗することになります。その経験からも、僕は新たな学びを得ました。