ドラッカーが唱えた「目標管理」で省かれた“本質”
目標管理の考え方を世界で初めて説いたのは、マネジメントの父ともいわれる世界的な経営学者でありコンサルタントであるピーター・F・ドラッカーでした。
彼の数ある著作の中で間違いなく代表作の一つである『現代の経営』(1954年刊行)において、人類史上初めて目標管理の考え方を提唱し、その19年後に手掛けた最大の代表作『マネジメント』(1973年刊行)において、さらに洗練させた形で発表しました。
日本語で目標管理と訳されたものの、ドラッカーが『現代の経営』で示した英語表記は、Management By Objectivesand Self-controlでした。直訳すれば、複数の目標と自己管理によるマネジメントとなります。
ところが、日本の多くの企業では、後半の自己管理を省いて、ただの目標による管理、つまり、Management By Objectivesと間違って理解し、それをMBOと略して呼ぶようになりました。
本来、ドラッカーが唱えた目標管理は、省かれた自己管理に本質があり、自ら自発的に目標を設定して取り組み、その結果の評価についても自ら行うことに特徴があります。
この点を踏まえて、ドラッカーは目標管理の導入によって、支配のマネジメントから自己管理によるセルフマネジメントが実現できるのであり、目標管理こそがマネジメントの哲学といえるのだと宣言しました。
ドラッカーが唱えた目標管理の意味は、一人ひとりが属する組織の成長に貢献することを通じて個人としての成長につながる価値ある目標を、主体性をもって達成する。これによって、組織と個人の成長を同時実現するものでした。目標管理の本質をよりかみくだいて表現すれば、一人ひとりが「自分の活躍の場を創造し、それを上司がサポートする」ことに核心があるといえます。
従って、目標管理の本質といえる自己管理は、上位役職者が強制的にノルマを課し、それに基づいて管理するものではなく、あくまでも自らの主体性と自発性に基づいて設定された目標によって自らを管理する。
つまりセルフコントロールするという意味が込められています。そして、結果の評価についても、あくまでも自らが客観的な視点から自己評価し、次の目標設定につなげることも含まれています。
既に多くの日本企業で展開されている目標管理は、ドラッカーが唱えた目標管理とは全く意味の異なる管理手法であり、単なるノルマ管理としかいいようのないものになってしまっているのです。
ドラッカーのほとんどの著作を翻訳された上田惇生さんは、おそらく日本における目標管理の誤った状況に強い問題意識を持たれ、既に広く流通してしまっている誤った目標管理と本家本元のドラッカーの目標管理を厳密に区別するために「自己目標管理」という新たな訳語を創出したと思われます。とても適切な訳語だと感じます。本書でも、目標管理に代えて、自己目標管理という訳語を使って説明していきます。
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