機能以外の部分も見てもらえるようになったワケ
茶筒というのは、そのものの機能だけでいえば、茶葉を保存する容器です。
しかし、茶筒だけでなく、家電にしても、どんなモノづくりの場合でもそうですが、その機能を述べるだけでは安い商品が出てきたときに、「安いほうでいいじゃん」と価格競争に巻き込まれていくことになります。
ですから、お客様に対して、言葉にできるものも、言葉にならないものも含めて、つくるモノに宿る「哲学」や「らしさ」、「感性」や「空気感」のようなことまで伝えていく。
「長年修業を重ねた職人たちの手で、130以上の工程を丹念に施した結果、開けた瞬間の空気をつかむような感触や、閉めるときのスーッとひとりでに下がっていく気持ちよさが生まれるんです」
「使う人ごとに手の脂の具合が違うので、たとえばお肉好きな人と菜食の人でも年月を経た際の茶筒の色味の変わり方が違います。その人ごとの色味になっていくんですよ」
「100年以上、時代の波を超えて残ってきた技術でつくられた茶筒なので、長年大事に使うことができて、親子で受け継いでいただくこともできます。実際そうやって、長年使われたものをお子さんやお孫さんが修理に持ってこられることも多いんです」
たとえば、出張販売の店頭で茶筒をつくる過程を実演して見てもらいつつ、言葉にできるものとしては右のようなことを一から丁寧に伝えていきました。
すると、興味を持ってちゃんと使ってくださる個人のお客様との関係が生まれていく。
モノを入れる容器に心を配りたい方、長い期間一つのモノを大事に使いたい方、自分が使ってよかったからプレゼントにしたいとおっしゃってくださる方――。
だんだんと開化堂の茶筒に価値を見出してくださる方々が生まれていき、よさを少しずつ感じていただけるような人の輪が広がっていったのです。
八木 隆裕
開化堂
六代目当主