「平均生涯転職」米国は10回、日本は2回
▶近年の採用トレンド
■人的資本経営時代のタレント獲得
すでにご存じの方も多いとは思いますが、ここでは改めて「人的資本経営とは何か」について触れたいと思います。
人的資本経営とは、「人材を資本として考えてその価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値の向上につなげていく経営のあり方」のことです。長らく日本においては、人材は資本ではなく資源、つまり「投資」ではなく「消費」の対象として捉えられてきました。
終身雇用、年功序列、新卒一括採用を人材システムとして採用してきたため、諸外国と比較して労働者の生涯平均転職回数が少なく、転職潜在層が多いという状況を生んでいます。具体的にいうと、米国の生涯平均転職回数が10回に対して、日本の生涯平均転職回数は2回程度と考えると想像しやすいかもしれません。
日本社会全体で捉えると、2021年における日本の労働人口6907万人に対して転職者はわずか288万人であり、95%以上が転職潜在層だという計算になります。
また、少子高齢化の影響で労働人口は今後ますます減少し、2023年までに営業職・事務職・エンジニア職などの職種を問わずに、ほぼすべての職種で労働人口が不足することを余儀なくされています。その反面、求人数は増加の一途を辿っており、近年は産業構造の転換に伴うDX化の推進などを背景に、企業の経験者採用ニーズはますます高まっています。
こういった背景もあり、「人材を資産として捉え、『募集をする』のではなく、『獲得する』意識を持つことこそが採用競争力につながり、その先の企業競争力につながる」という「タレント・アクイジション」への変革が行われてきているのです。
従来の募集活動とは異なり、見込み顧客に対して認知・検討・興味付けをするマーケティングに近い発想ですが、こういった手法は、いずれも採用においては転職潜在層にアプローチする手法としては有効であり、労働人口減少大国である日本においては、今後主流になる考え方です。
▶欧米では主流のRecruiting is Marketing という考え方
今や、世界の時価総額ランキングに日本企業が入ることがなくなって久しいですが、海外においては採用競争力こそが企業価値向上につながるといわれており、10年以上前からタレント獲得合戦が激化しています。
その注目度は年々高まっており、Googleトレンドを見ると「タレント・アクイジション」の検索数が右肩上がりで伸びてきていることがわかります。
実際に海外では、2013年から“Recruiting isMarketing”(採用はマーケティングである)という捉え方が一般化しています。
そのため、SNSを介したソーシャル・リクルーティングや社員の紹介を通じたリファラル採用、自社の採用サイトからのオウンドメディアのリクルーティングのように、転職の潜在層にアプローチするチャネルがどんどん広がり、企業の投資優先順位の上位に位置されるようになったのです。
現在、日本は約10年遅れてやっと採用マーケティングのスタートラインに立ちました。
「最近採用活動がより一層難しくなってきた……」
そう感じる背景には、そもそもの日本の労働市場、採用市場の構造が影響しており、これらの状況を打開するためには、競合と「戦わない採用」、つまり転職潜在層へマーケティングをして人材を獲得する手法が必要なのです。
鈴木 貴史
株式会社TalentX(旧株式会社MyRefer) 代表取締役CEO