(写真はイメージです/PIXTA)

FRBによる金融引き締めの「副作用」がでてきています。そのひとつが、総資産2,090億ドル(約28兆円)を有するシリコンバレー銀行(SVB)の破綻です。多くの投資家が金融危機を懸念するなか、株式会社武者リサーチ代表の武者陵司氏は「これが米国株高の起点になる可能性がある」といいます。その根拠とは……詳しくみていきましょう。

実は「意義不明」の米国金融引き締め

このように利上げの弊害が顕在化したが、では金融引き締めの効果は? となると大いに疑問が高まる。

 

まず利上げにもかかわらず長期金利がピークアウトしており、経済全体の資金コストは上昇していない、故に景気にはブレーキになっていない。金融環境指数(Financial Condition Index)は2022年の秋口以降改善している。

 

[図表3]米国名目GDP成長率と長短金利推移
[図表3]米国名目GDP成長率と長短金利推移

 

まさに2005年にグリーンスパン議長が謎(Conundrum)といった現象が依然として続いているのである。

 

長期金利はなぜ上昇しないのか。

 

① 市場はインフレを一過性と見ている

② 企業の超過利潤などによる恒常的資金余剰など、構造的要因が働いている

 

とみるほかはない。

 

2022年半ばにかけてTIPS(インフレ連動債利回り=実質金利)が上昇したが、それはインフレ懸念ではなくFRBの利上げに影響された可能性が濃厚である。

 

図表4に見るように期待インフレ率は既に沈静化しているのに、実質金利(TIPS)が高止まりしているのである。

 

すでに沈静化した期待インフレ率
すでに沈静化した期待インフレ率

 

[図表5]米国10年国債利回りの推移(名目利回り、コアCPI実質利回り、TIPS)
[図表5]米国10年国債利回りの推移(名目利回り、コアCPI実質利回り、TIPS)

 

長期的自然利子率(=景気に中立となる実質金利)が低下していることが、強く示唆される。

 

その背景には、IT・NET・AIによる技術革命があるのではないか。つまり財・サービス価格が技術進化によって急激に低下し、資本生産性が高まっているからと考えられる。

 

金利低下要因として一般的に指摘される生産性の低下、潜在成長率の低下とはまったく逆のことが起こっている、のではないだろうか。

 

こうした条件の下で更に利上げを続ければ金融システム不安が高まり、長期金利はさらに低下するだろう。利上げの正当性が強く疑われる状況である。

 

また、利上げの効果がしり抜けなのは、労働市場も同じである。

 

利上げによる景気減速、労働需給緩和というプロセスは起きていないのに、賃金上昇率ははっきりピークアウトしている。結果オーライではあるが、何故だろうか。

 

[図表6]ピークアウトした平均時給
[図表6]ピークアウトした平均時給

 

2023年2月の雇用統計では、雇用増加数は31.1万人、失業率3.6%と絶好調なのに、平均時給は2022年1月の0.7%、3月0.6%をピークに、8月(0.3%)、9月(0.3%)、10月(0.4%)、11月(0.3%)、12月(0.3%)、2023年1月(0.3%)、2月(0.2%)と確実に鈍化してきた。

 

また平均失業期間は、2019年9.3週から2021年16.1週、2022年8.7週の後、2023年2月には8.3週と、短期化している。

 

これは、労働市場が弾力的に動き、資源配分を采配していると考えられる。より具体的には、NAIRU(インフレを加速させない失業率)が低下している可能性である。

 

労働市場ではインターネットによって求人と求職のマッチングが瞬時にできるようになった。またよりフェアな労働賃金決定が可能になっている。スキルアップによるジョブシフトが給与増+生産性上昇を引き起こしているかもしれない。

 

NAIRUが低下しているとすれば、それは労働力供給余力を意味し、生産増加の一方で賃金が抑制される環境にあるのかもしれない。つまり利上げで景気を減速させる必要がもはやないのではないか。

 

[図表7]失業率と求人未充足率
[図表7]失業率と求人未充足率

 

[図表8]53年ぶりの低失業率とNAIRU
[図表8]53年ぶりの低失業率とNAIRU

 

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※本記事は、武者リサーチが2023年3月6日に公開したレポートを転載したものです。
※本書で言及されている意見、推定、見通しは、本書の日付時点における武者リサーチの判断に基づいたものです。本書中の情報は、武者リサーチにおいて信頼できると考える情報源に基づいて作成していますが、武者リサーチは本書中の情報・意見等の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。かかる情報・意見等に依拠したことにより生じる一切の損害について、武者リサーチは一切責任を負いません。本書中の分析・意見等は、その前提が変更された場合には、変更が必要となる性質を含んでいます。本書中の分析・意見等は、金融商品、クレジット、通貨レート、金利レート、その他市場・経済の動向について、表明・保証するものではありません。また、過去の業績が必ずしも将来の結果を示唆するものではありません。本書中の情報・意見等が、今後修正・変更されたとしても、武者リサーチは当該情報・意見等を改定する義務や、これを通知する義務を負うものではありません。貴社が本書中に記載された投資、財務、法律、税務、会計上の問題・リスク等を検討するに当っては、貴社において取引の内容を確実に理解するための措置を講じ、別途貴社自身の専門家・アドバイザー等にご相談されることを強くお勧めいたします。本書は、武者リサーチからの金融商品・証券等の引受又は購入の申込又は勧誘を構成するものではなく、公式又は非公式な取引条件の確認を行うものではありません。

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