実は「意義不明」の米国金融引き締め
このように利上げの弊害が顕在化したが、では金融引き締めの効果は? となると大いに疑問が高まる。
まず利上げにもかかわらず長期金利がピークアウトしており、経済全体の資金コストは上昇していない、故に景気にはブレーキになっていない。金融環境指数(Financial Condition Index)は2022年の秋口以降改善している。
まさに2005年にグリーンスパン議長が謎(Conundrum)といった現象が依然として続いているのである。
長期金利はなぜ上昇しないのか。
① 市場はインフレを一過性と見ている
② 企業の超過利潤などによる恒常的資金余剰など、構造的要因が働いている
とみるほかはない。
2022年半ばにかけてTIPS(インフレ連動債利回り=実質金利)が上昇したが、それはインフレ懸念ではなくFRBの利上げに影響された可能性が濃厚である。
図表4に見るように期待インフレ率は既に沈静化しているのに、実質金利(TIPS)が高止まりしているのである。
長期的自然利子率(=景気に中立となる実質金利)が低下していることが、強く示唆される。
その背景には、IT・NET・AIによる技術革命があるのではないか。つまり財・サービス価格が技術進化によって急激に低下し、資本生産性が高まっているからと考えられる。
金利低下要因として一般的に指摘される生産性の低下、潜在成長率の低下とはまったく逆のことが起こっている、のではないだろうか。
こうした条件の下で更に利上げを続ければ金融システム不安が高まり、長期金利はさらに低下するだろう。利上げの正当性が強く疑われる状況である。
また、利上げの効果がしり抜けなのは、労働市場も同じである。
利上げによる景気減速、労働需給緩和というプロセスは起きていないのに、賃金上昇率ははっきりピークアウトしている。結果オーライではあるが、何故だろうか。
2023年2月の雇用統計では、雇用増加数は31.1万人、失業率3.6%と絶好調なのに、平均時給は2022年1月の0.7%、3月0.6%をピークに、8月(0.3%)、9月(0.3%)、10月(0.4%)、11月(0.3%)、12月(0.3%)、2023年1月(0.3%)、2月(0.2%)と確実に鈍化してきた。
また平均失業期間は、2019年9.3週から2021年16.1週、2022年8.7週の後、2023年2月には8.3週と、短期化している。
これは、労働市場が弾力的に動き、資源配分を采配していると考えられる。より具体的には、NAIRU(インフレを加速させない失業率)が低下している可能性である。
労働市場ではインターネットによって求人と求職のマッチングが瞬時にできるようになった。またよりフェアな労働賃金決定が可能になっている。スキルアップによるジョブシフトが給与増+生産性上昇を引き起こしているかもしれない。
NAIRUが低下しているとすれば、それは労働力供給余力を意味し、生産増加の一方で賃金が抑制される環境にあるのかもしれない。つまり利上げで景気を減速させる必要がもはやないのではないか。
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