全体の軸が安定する「正しいあごの引き方」とは?
姿勢を正すために、ここでは首について見ていきます。首というのは、からだの中でも負担がかかりやすい部位のひとつです。細い部位ではありますが、重たい頭を支えてくれています。
また首にはさまざまな筋肉が集中していて、重要な働きを担っています。首に集まっている筋肉の名前を挙げてみましょう。有名なものとしては、「僧帽筋」(筋肉の上層)、「頭板状筋」「肩甲挙筋」「菱形筋」(下層の筋肉)、「胸鎖乳突筋」「中斜角筋」などがあります。
難しい名称はさておき、首にこれだけ多くの筋肉が集まっているということは、重く見ておくべきです。なぜならこれらの筋肉は、肩や腕にまでつながっているからです。つまり、首に無駄な緊張や負担がかかっていると、つながっている筋肉にまで悪影響が及び、肩や腕にまで負担がかかっていくことになるのです。
首の使い方については「あごを引きなさい」ということが、昔からよくいわれてきました。けれども実際のところ、「あごを正しく引く」という動きは誤解をされやすいようです。正しいあごの引き方を、解剖学的な視点から説明します。
【正しいあごの引き方】
① 真っすぐ正面を見て頭全体を後ろに引きます。
② 胸椎の中ほど、つまり背中の一番後ろに張り出しているあたりを、胸側にへこませます。
③ ②の動きのあとは、両肩が上がりやすいので、下に下ろすようにイメージしましょう。
【正しくないあごの引き方の例】
・うなずくような、あごの引き方。
・首を前に倒して、あごの先を喉に押し付けているような引き方。
(視界が狭まり、喉もつまる)
このように、あごを正しく引けた状態を、「首固定」と呼ぶ専門家がいます。これは、厳密にいうと「首の後ろを固定する」という意味です。首固定ができているということは、からだ全体の軸がしっかりとできているわけですから、姿勢に揺るぎない安定感が出てきます。
大きな筋肉を使って呼吸をするために・・・
自動車を運転する人にとって、わかりやすいたとえを挙げてみましょう。運転中に急ブレーキをかけたとき、多くの人が後頭部を座席に押し付け、両腕を突っ張ってハンドルを押すことでしょう。そのときの姿勢が「首固定」です。それがもっとも安全な姿勢であると、からだは本能的にわかっているのです。
このような首固定の姿勢が普段から身についていると、首の可動域(動かせる範囲)に変化が出てきます。変化といっても「可動域が広くなる」のではありません。「可動域が狭くなる」のです。「可動域が狭くなる」というと「よくない変化」と感じる人がいるかもしれません。ところが、首の可動域については狭いほうがよいのです。
「可動域が狭くなる」(首を回せる範囲が狭くなる)ということは、代わりに首の強度が強くなることを意味します。首固定を行うと、頭が正しい位置に移動する点も大きなメリットです。頭は重い部位です。これを首から背骨が受け止めているわけですが、首固定によって頭の位置が正しく整えられると、頸部の筋肉への負担は軽くなります。
さらには、首からの影響を受けやすい肩や腕の筋肉の緊張も、解けていくことになります。また首固定を行うと、呼吸時に使う筋肉の部位がよいほうへと変わります。首を前に出した悪い姿勢の場合、からだの前面にある胸とお腹の筋肉が優先して使われることになります。けれども首固定ができたよい姿勢の場合、からだの後ろ面にある背中の筋肉が優先して使われるようになるのです。
人体を輪切りにしてみると、一般的に背中の筋肉は腹部の筋肉の約3倍の量になっています。科学的には「少ない筋肉を使って呼吸をするより、大きな筋肉を使って呼吸をするほうが効率がよい」という原則が解明されています。また、大きい筋肉を使うほうが消費カロリーも多くなり、ダイエット効果も高まります。
さらに、首固定ができていると、上半身に軸ができます。ためしに、正座をした状態から立ち上がるとき、首固定を意識して行うと、立ち上がる動作が楽に、スムースになります。首と肩の力がよい具合に抜けているため、スッと立ち上がれるのです。
ぜひ、実際に比べてみてください。首固定の効果がわかるはずです。