社員の間に蔓延していた不満が消えた
■歩み寄る社員と幹部たち
この日を境にして、社員の間に蔓延していた「幹部になにを言っても無駄」「幹部はなにもしてくれない」「幹部は自分のことしか考えていない」といった不満が消え、対話が活性化していきました。
対話が成立するには二つの要素が必要です。それは自己開示して本音を言うことと、相手の話を傾聴することです。社員が本音を言うためには、それを聞かせてもらう幹部が真摯に耳を傾けることが必要です。
とはいえ、社員の要望を聞いてもすぐに解決できないこともたくさんあります。幹部が社員に約束したことの一つに「意見が受け入れられない場合は、その理由を丁寧に説明します」ということがあったため、彼らは愚直にその約束を守り続けました。
それまで幹部による指示・命令、社員の無関心が横行していた社内の空気は、幹部と社員の対話が活性化したことによって一変しました。
そして1回目のワークショップのときは、仕事の手を止められることを嫌がっていた社員も対話を軸にしたワークショップを2回、3回と続けるうちに前向きになり「会社を良くするには自分たちも仕事を頑張ることが必要だ」と理解するようになっていたのです。
社員から要望が多かったのは「きちんと評価してほしい」ということでした。そこで幹部たちは日々の声かけに努めると同時に、各部門から8人の社員が参加する「評価制度の見直しプロジェクト」を立ち上げました。
半年ほどかけて自分たちでなにをどう評価するのかを検討した結果「みんなの評価システム」ができあがりました。評価項目が多過ぎるとなにを頑張ったらよいのかがよく分からなくなるという意見が出たため、部門ごとに5~7項目程度に絞り、当面は3段階で評価することになったのです。
このプロジェクトのもう一つの成果は、自分たちで評価制度を考える過程で「全員が納得するように公平に評価することはとても難しい、というよりほとんどムリと言ってもよい」ということを社員が理解したことにあります。多少あいまいな部分が残ったとしても、それは話し合いで解決することになりました。
そして「なぜこうなるのですか」という社員からの問いに対し、幹部だけではなくプロジェクトチームに参加した社員が丁寧に説明するようになり、社員たちの納得度は非常に高まりました。
その後、部門ごとの定期的な対話会は社員たちの自主運営で継続することになりました。また半年に1度の全社対話会には幹部も参加し、にぎやかに話し合うようになっていったのです。
良い会社にしたいという幹部たちの思いが伝わってから数カ月間で、社員たちとの関係性は大きく向上し、社内の雰囲気も以前とはまったく違ってきました。幹部たちは社員の幸福度UPを掲げて業務改善、事業計画の立案に取り組みました。
定例の対話会では社員の意見を丁寧に聞きながらアクションを決めていくため、幹部に対する社員の共感度が向上し、さまざまな業務改善の取り組みが効率的に進むようになりました。社長も組織の変化を実感することで、幹部や社員への感謝の気持ちを強め、事業承継に向けて任せる範囲を広げられるようになりました。
気がつけば離職者も減り、笑顔で働く人たちも増えました。なによりも幹部たちが次期経営チームとしての結束を固め、部下の育成に取り組み始めたのです。心配されていた幹部たちの個人売上の低下もなく、成長した部下たちの売上が上がり始め、20%以上の増収増益をはたすことができました。
また、それを受けた社員たちが「次年度はさらに25%UPする」という事業計画を自分たちで立て、取り組みを開始できるまでになったのです。さらに事業承継した2年後には、市内の一等地に新規店舗を出店しました。
このようにして、幹部の変化がきっかけで名実ともに地域でいちばんの会社に成長することができました。
森田 満昭
株式会社ミライズ創研 代表取締役