借地借家法32条1項本文は、「建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。」と定めています(一定期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合、その期間中は賃料増減請求ができません)。
すなわち、①土地建物に対する租税その他の負担の増減、②土地建物の価格の上昇・低下その他の経済事情の変動、③近傍同種の建物の賃料との比較、によって賃料が不相当となった場合には、賃料の増減を請求することができます。
そして、賃貸人は、当事者間で話合いがまとまらないのであれば、賃貸物件の所在地を管轄する簡易裁判所等に対して、賃料等調停を申し立てることができます(民事調停法24条)。
なお、いわゆる調停前置主義が採用されているため、最初から賃料増額請求訴訟を提起することはできません(民事調停法24条の2第1項)。
賃料増額請求が認められるか否か、すなわち、現在の賃料が「不相当」といえるか否かは、借地借家法32条1項本文記載の経済事情の変動のほか、当事者が賃貸借契約締結時に賃料額決定の要素とした事情(たとえば、賃貸人と賃借人の個人的な情誼から相場より安価な賃料としていたところ、世代交代によってそのような特殊事情が消滅した場合など)を含め、当事者間の具体的な事情を総合考慮して、現在の賃料を維持することが公平か否かという見地から判断されます(稻本洋之助・澤野順彦編『コンメンタール借地借家法〔第4版〕』(日本評論社、2019年)268頁)。
本件では、賃借人のいるマンションを購入したことで従前の賃貸借契約関係を承継したとのことなので、どのような事情があって相場より安価な賃料になったのかはわかりません。
仮に、賃貸借契約締結時の賃貸人と賃借人の個人的な情誼が原因であったとすれば、少なくとも相談者と賃借人との間にはそのような人間関係はありませんので、賃料を増額変更すべきという方向に働く要素になると思われます。
ただし、一挙に高額な増額となる場合には、増額の幅を考慮する等の配慮が求められます。たとえば、現在の賃料と適正賃料との間に倍以上の開きがあるようなケースでは、一挙に適正賃料に引き上げるのではなく、いったん現在の賃料と適正賃料との中間値が採用されることがあります(東京高判平成18年11月30日判タ1257号314頁)。
賃借人は90歳。立退き要求はできる?
期間の定めのある建物賃貸借契約の場合、賃貸人が期間満了日の6ヵ月前までに賃借人に対して更新拒絶の通知をしないと、従前の契約と同一条件で契約を更新したものとみなされます(借地借家法26条1項本文)。
更新後は期間の定めのない賃貸借契約となります。期間の定めのない賃貸借契約は、解約の申入れから6ヵ月を経過することで終了します(借地借家法27条1項)。
期間の定めのある建物賃貸借契約において、期間満了日まで6ヵ月を過ぎてしまっている場合は、更新拒絶の通知から6ヵ月を経過した時点で賃貸借契約が終了すると解されます(東京地判平成元年11月28日判時1363号101頁)。