インターネット時代の「リアル」とは何か―『マトリックス』
爆発的に広まったインターネットは、現実とは別の空間、もう一つの世界を作り上げた。現実と虚構とが共存する日常が当たり前となり、次第に何かが見失われ始めていた。
未知なるテクノロジーへの不安とインターネットの広大な情報の海に飲み込まれていく感覚が人々の間に広がっていく。
自分が生きていた世界が全て虚構だったことを知った、キアヌ・リーヴス演じる主人公ネオが、人類を解放するため、支配するAI・エージェント・スミスに戦いを挑む。そんなストーリーで世界的なヒットとなったのが『マトリックス1』(1999)だ。
※1『マトリックス』(The Matrix) 1999年 監督:ウォシャウスキー兄弟(ラリー・ウォシャウスキー、アンディ・ウォシャウスキー) 出演:キアヌ・リーヴス、ローレンス・フィッシュバーン ▶ハッカーであるネオは、ある時謎のメッセージを受け取る。そのメッセージの発信者トリニティと会ったネオは、モーフィアスという男を紹介される。モーフィアスは「人間が通常見ているこの世界はコンピュータによって作られた仮想現実だ」と驚くべきことを言う。
現実に目覚め戦うのか、夢を見続けるのか。現実を夢が侵食する時代に、リアルとは何かという問いが突き付けられる。そうした人々の感覚を、歴史家のブルース・シュルマン(ボストン大学教授)は次のように分析する。
「パソコンとネットは政治、経済、文化、そして社会生活や人間関係を一変させるものであることを、人々は感じました。だからこそ、その世界に積極的に飛び込む人もいれば、不安を覚える人もいたのです。
キアヌ演じる主人公のネオは、抵抗軍のリーダー、モーフィアスから青いカプセルを飲むか、赤いカプセルを飲むかの選択、すなわちマトリックスの世界に入るかどうかの決断を迫られます。赤いカプセルを飲んで、現実に目覚め、闘う覚悟はあるのか、と。それはまさにネット社会の入口にいる人々に向けられた問いだったのです」
作られた「現実」に埋没する世界―『トゥルーマン・ショー』が見せる不安
今では当たり前だが、街に監視カメラが溢れ、人々がリアリティショーを楽しむようになったのもこの頃のことだった。そうした人々の姿を極限の形で描いたのが『トゥルーマン・ショー2』(1998)だ。
※2『トゥルーマン・ショー』(The Truman Show) 1998年 監督:ピーター・ウィアー 出演:ジム・キャリー、ナターシャ・マケルホーン、エド・ハリス ▶シーヘブン島で暮らすトゥルーマンは、島の外に出たことがない。実は、彼はリアリティ番組『トゥルーマン・ショー』の主役であり、島も住人も全てがセットなのだ。そのことを知らないのは彼だけだった。不審な点を見つけた彼は、何とか島を抜け出そうとする。
シーヘブン島で暮らす青年トゥルーマンは穏やかな日々を送っていたが、ある一つの綻びによって、自分が生まれた瞬間から人生を24時間・生放送されていたことに気づく。
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