『キャスト・アウェイ』に込められた問い
無人島で必死に生き延びる彼は、一緒に島に流れついたバレーボールにウィルソンという名前をつけ、心の友とする。バレーボールにひたすら話かけることで心の平衡を保つ男の姿を見ているうちに観客たちは、複雑な感慨に囚われる。私たちと彼は、一体どこが違うのだろう?
『フォレスト・ガンプ』から4年。再びタッグを組んだトム・ハンクスとロバート・ゼメキスは、主人公の運命に90年代を総括するような問いを背負わせた。
日々の慌ただしい流れに身を任せているうちに、私たちは、何かを失ってしまったのではないか? 一人、空虚な自己満足の言葉を、誰かれ構わず、投げかけるようになってしまっていたのではないか。
トム・ハンクスの姿に自分を重ね、アメリカという国が大事にしてきたものの喪失へと想いを馳せても、失った時は返ってはこない。
90年代アメリカは、綻びが出始めていた。
そんな時に冷戦が終息、歴史的な大きな物語に人々の目が奪われているうちに、国内で抱える不安、葛藤と向き合わずに済んでいたのかもしれない。それを覆い隠すかのようなITブーム、グローバル化の急激な進展とその過程で喪失した、アメリカの美徳。
だが、新たな世紀を迎えてすぐ、大きな危機がアメリカを襲うことになる。
丸山 俊一
NHK エンタープライズ
エグゼクティブ・プロデューサー
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