ITの急速な発展と普及により、私たちの生活は格段に便利になりました。一方、以前はなかった様々な問題が噴出しています。興味深いことに、1990年代のアメリカ映画には、あたかも今日の状況を既に予見していたかのような作品がみられます。NHKエンタープライズ エグゼクティブプロデューサーの丸山俊一氏が著書「アメリカ 流転の1950ー2010s 映画から読む超大国の欲望」(祥伝社)より解説します。
『キャスト・アウェイ』に込められた問い
無人島で必死に生き延びる彼は、一緒に島に流れついたバレーボールにウィルソンという名前をつけ、心の友とする。バレーボールにひたすら話かけることで心の平衡を保つ男の姿を見ているうちに観客たちは、複雑な感慨に囚われる。私たちと彼は、一体どこが違うのだろう?
『フォレスト・ガンプ』から4年。再びタッグを組んだトム・ハンクスとロバート・ゼメキスは、主人公の運命に90年代を総括するような問いを背負わせた。
日々の慌ただしい流れに身を任せているうちに、私たちは、何かを失ってしまったのではないか? 一人、空虚な自己満足の言葉を、誰かれ構わず、投げかけるようになってしまっていたのではないか。
トム・ハンクスの姿に自分を重ね、アメリカという国が大事にしてきたものの喪失へと想いを馳せても、失った時は返ってはこない。
90年代アメリカは、綻びが出始めていた。
そんな時に冷戦が終息、歴史的な大きな物語に人々の目が奪われているうちに、国内で抱える不安、葛藤と向き合わずに済んでいたのかもしれない。それを覆い隠すかのようなITブーム、グローバル化の急激な進展とその過程で喪失した、アメリカの美徳。
だが、新たな世紀を迎えてすぐ、大きな危機がアメリカを襲うことになる。
丸山 俊一
NHK エンタープライズ
エグゼクティブ・プロデューサー
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NHK エンタープライズ
エグゼクティブ・プロデューサー
慶應義塾大学経済学部卒業後1987年NHK入局。ディレクターとしてフランス、イタリア、ロシアなどヨーロッパ取材をベースに多くの教養特集を構成、演出。プロデューサーとして「英語でしゃべらナイト」「爆笑問題のニッポンの教養」「ニッポン戦後サブカルチャー史」などの異色エンタメを企画開発、現在も「欲望の資本主義」「欲望の時代の哲学」などの「欲望」シリーズの他、時代の変化を読み解く教養ドキュメントをプロデュースし続ける。著書『14歳からの個人主義』『14歳からの資本主義』『結論は出さなくていい』『働く悩みは「経済学」で答えが見つかる』他、制作班との共著に『欲望の資本主義1~6』『欲望の民主主義』『マルクス・ガブリエル 欲望の時代を哲学する』『AI以後』『世界サブカルチャー史欲望の系譜 アメリカ70-90s「超大国」の憂鬱』他多数。東京藝術大学客員教授も兼務、社会哲学を講じる。
撮影:梅谷秀司
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