映画『ミリオンダラーベイビー』『コラテラル』が19年前に暴き出していた、デジタル化がもたらす繁栄の陰で進行する「崩壊」とは

映画『ミリオンダラーベイビー』『コラテラル』が19年前に暴き出していた、デジタル化がもたらす繁栄の陰で進行する「崩壊」とは
(※写真はイメージです/PIXTA)

2000年代のアメリカにおいては、デジタル技術が急激に大衆に普及した一方、阻害される人々が発生し、格差社会の拡大の兆しがみられました。それは家族の形や生活様式、そして社会にある種の「崩壊」をもたらしました。NHKエンタープライズ エグゼクティブプロデューサーの丸山俊一氏が著書「アメリカ 流転の1950ー2010s 映画から読む超大国の欲望」(祥伝社)より解説します。

バラバラになったアメリカの家庭

2000年代は、デジタル技術の大衆化が進んだ時代でもあった。コンピュータは小型化、高速化し、あらゆるものに搭載されるようになる。

 

ホンダの人型ロボット「アシモ」。人間のように二足歩行する姿は話題となった。他にも、体重をかけて傾けるだけで走り出す電動立ち乗り二輪車「セグウェイ」や、ロボット掃除機「ルンバ」など、ひと昔前ならSFの世界でしか見られなかった光景が日常となり、「自動化の夢」を人々は無邪気に楽しむようになる。

 

もちろん、それらの技術はまず産業界で利用された。自動車工場ではロボットが自動で組み立て作業をするようになった。

 

ネット書店から始まりあらゆる商品を扱うようになったアマゾンの倉庫では、商品のピックアップが機械で自動的に行なわれ、人間はそれを拾い上げるだけになった。「人の手が掛からない」ということは、すなわち労働者がいらなくなることでもある。

 

ハイテクと自動化は恩恵だけでなく、多くの労働者にとって、これまでにない技能や過酷な競争を強いられる状況が生まれる。

 

テクノロジーは利便性をもたらす一方で、生き残りを賭けた熾烈な戦いも生んだのだ。

 

その結果、今日につながる格差社会の拡大の端緒がこの時代に見られるようになった。IT企業を起こして成功し巨額の富を得る者が現れる一方で、地方の産業は廃れ、そこで働くブルーカラーの人々は新たな仕事を探さざるを得なくなる。

 

高い給与など望むべくもなく、広い国土を仕事を求めてさまよう労働者たち。いつしか家庭はバラバラになり、孤立を深めていく。

 

そうした貧困家庭の出身の女性を主人公に、ボクシングで一攫千金を狙う姿を描いたのがクリント・イーストウッド監督の『ミリオンダラー・ベイビー8』(2004)だ。

※8『ミリオンダラー・ベイビー』(Million Dollar Baby) 2004年 監督:クリント・イーストウッド 出演:クリント・イーストウッド、ヒラリー・スワンク、モーガン・フリーマン ▶小さなボクシングジムを経営するフランキー・ダンのもとを、マギーという女性が入門したいと訪れる。マギーはボクサーとしての才能を発揮、ついに100万ドルの賞金がかかったタイトル戦の権利を手に入れる。だが、試合中の敵の反則行為により、マギーは脊椎を損傷し、全身不随となってしまう。

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アメリカ 流転の1950ー2010s 映画から読む超大国の欲望

アメリカ 流転の1950ー2010s 映画から読む超大国の欲望

丸山 俊一

祥伝社

欲望の正体を求めて。想像力の旅が始まる。 NHK「世界サブカルチャー史 欲望の系譜」アメリカ編を 完全書籍化 番組では放送されなかったインタビューも収録 理想、喪失、そして分断 アメリカはどこへ行こうとしているの…

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