2000年代アメリカでの「同性婚」をめぐる対立
2000年代のアメリカでは、同性婚をめぐる社会の分裂も噴き出し始めていた。性別に縛られない愛の形が社会的に受け入れられるようになり、2004年にマサチューセッツ州がアメリカ史上初めて同性婚を法的に認め、いくつもの州がそのあとを追った。
しかし、この時代の流れに保守派の人々は猛反発した。キリスト教右派勢力や保守層は、同性婚によって、伝統的な結婚観や家族観が崩壊しかねないことに危機感を募らせたのだ。彼らは集会などで同性婚への反対を盛んにアピールした。
折しも、2004年は大統領選の年だった。ブッシュ大統領は同性婚に反対することで保守層の支持を集め、再選を果たす。
アメリカを揺るがした論争は、伝統的な異性同士の結婚を守るという保守派の勝利で決着したかに見えた。だが、実際にはその後も同性婚を認める社会の潮流は強まっていった。その理由を、トロント大学哲学部教授で哲学者のジョセフ・ヒースは次のように語る。
※12『ブロークバック・マウンテン』(Brokeback Mountain) 2005年 監督:アン・リー 出演:ヒース・レジャー、ジェイク・ジレンホール ▶1960年代、ワイオミング州ブロークバック・マウンテンの牧場で、季節労働者として働くイニスとジャック。いつしか愛し合うようになった2人だが、思いを残したまま別れる。その後、共に女性と結婚したが、再び定期的に会うようになる。それから20年間、付かず離れずの関係を続けていた2人だったが……。
『ブロークバック・マウンテン』は、台湾出身の監督アン・リーの作品だ。1960年代、ワイオミング州ブロークバック・マウンテンの牧場で、季節労働者として働くイニスとジャックは出会う。
次第に心を許した2人は、いつしか愛し合うようになる。だが、時代と土地柄はそうした関係を許さない。イニスは少年時代に見た、同性愛者がリンチで殺された事件が忘れられないのだ。
本心を隠したまま互いに妻子を持った2人は、20年にわたって付かず離れずの関係を続け、誰にも言えない愛を紡いでいく。だが、ある時イニスがジャックへ出した手紙は「受取人死亡」で差し戻されてくる。2人の愛はそうして終わりを迎えたのだった。
ヒースによれば、この映画は重要な意味を持っていた。