「同性婚合法化」のきっかけは「映画の力」だった!『ブロークバック・マウンテン』が人々に突きつけた「切実な問い」とは

「同性婚合法化」のきっかけは「映画の力」だった!『ブロークバック・マウンテン』が人々に突きつけた「切実な問い」とは
(※写真はイメージです/PIXTA)

アメリカでは「同性婚」について、2015年に連邦最高裁判決で「基本的人権」として認められ、2022年に連邦レベルで法制化されました。実は、同性婚を許容する土壌は2000年代から醸成されてきており、その背景には「ある映画の力」がありました。NHKエンタープライズ エグゼクティブプロデューサーの丸山俊一氏が著書『アメリカ 流転の1950ー2010s 映画から読む超大国の欲望』(祥伝社)より解説します。

2000年代アメリカでの「同性婚」をめぐる対立

2000年代のアメリカでは、同性婚をめぐる社会の分裂も噴き出し始めていた。性別に縛られない愛の形が社会的に受け入れられるようになり、2004年にマサチューセッツ州がアメリカ史上初めて同性婚を法的に認め、いくつもの州がそのあとを追った。

 

しかし、この時代の流れに保守派の人々は猛反発した。キリスト教右派勢力や保守層は、同性婚によって、伝統的な結婚観や家族観が崩壊しかねないことに危機感を募らせたのだ。彼らは集会などで同性婚への反対を盛んにアピールした。

 

折しも、2004年は大統領選の年だった。ブッシュ大統領は同性婚に反対することで保守層の支持を集め、再選を果たす。

 

アメリカを揺るがした論争は、伝統的な異性同士の結婚を守るという保守派の勝利で決着したかに見えた。だが、実際にはその後も同性婚を認める社会の潮流は強まっていった。その理由を、トロント大学哲学部教授で哲学者のジョセフ・ヒースは次のように語る。

 

「保守派は『同性婚』をめぐる論争に思いがけず負けてしまったのです。政治的には自分たちの思い通りにできるパワーを手にしていましたが、文化的には支持を失ってしまったのです。それは『ブロークバック・マウンテン12』(2005)のようなリベラルな映画が一つのきっかけでした」

 

※12『ブロークバック・マウンテン』(Brokeback Mountain) 2005年 監督:アン・リー 出演:ヒース・レジャー、ジェイク・ジレンホール ▶1960年代、ワイオミング州ブロークバック・マウンテンの牧場で、季節労働者として働くイニスとジャック。いつしか愛し合うようになった2人だが、思いを残したまま別れる。その後、共に女性と結婚したが、再び定期的に会うようになる。それから20年間、付かず離れずの関係を続けていた2人だったが……。

 

『ブロークバック・マウンテン』は、台湾出身の監督アン・リーの作品だ。1960年代、ワイオミング州ブロークバック・マウンテンの牧場で、季節労働者として働くイニスとジャックは出会う。

 

次第に心を許した2人は、いつしか愛し合うようになる。だが、時代と土地柄はそうした関係を許さない。イニスは少年時代に見た、同性愛者がリンチで殺された事件が忘れられないのだ。

 

本心を隠したまま互いに妻子を持った2人は、20年にわたって付かず離れずの関係を続け、誰にも言えない愛を紡いでいく。だが、ある時イニスがジャックへ出した手紙は「受取人死亡」で差し戻されてくる。2人の愛はそうして終わりを迎えたのだった。

 

ヒースによれば、この映画は重要な意味を持っていた。

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アメリカ 流転の1950ー2010s 映画から読む超大国の欲望

アメリカ 流転の1950ー2010s 映画から読む超大国の欲望

丸山 俊一

祥伝社

欲望の正体を求めて。想像力の旅が始まる。 NHK「世界サブカルチャー史 欲望の系譜」アメリカ編を 完全書籍化 番組では放送されなかったインタビューも収録 理想、喪失、そして分断 アメリカはどこへ行こうとしているの…

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