たとえば仕事上のやりとりをしているとき、同じような場面で同じようなやりとりをしていても、相手によって仕事の出来・不出来や、やりやすさ・やりにくさが出てくるのはなぜでしょうか。その違いは、感情的なレベルでの信頼関係のあるなしで生じていると指摘するのは、明治大学文学部教授の齋藤孝氏です。著書『究極 会話の全技術』(KADOKAWA)から、コミュニケーションにおいて大切なことについて詳しく解説します。
コミュニケーション力をアップさせるには、今話を聞いているという気持ちで本を読もう
実社会でいろいろな人を意識的に観察し、そこから学ぶことでも、コミュニケーション力をアップさせることが可能です。さらに、ある「コツ」をつかめば、本を読むときにもコミュニケーション力をアップさせることができます。
その「コツ」とは、ただ読むのではなく、「意識して読む」ことです。それによってあなたのコミュニケーション力は劇的に変わるでしょう。
100年前、あるいは1,000年前に亡くなった人間の本でも、今、その作者が目の前にいるのだと思って、聞くように読むと、よりリアルに感じられるようになり、血肉になっていきます。
「読んでいるのではない。聞いているんだ」と想像しながら読むことが大事なのです。
とくに聖書や仏典、論語などは、そもそもキリストやブッダ、孔子が話した言葉を弟子たちがまとめたものです。だからこそ、聞くように読むことによって、よりパワーを感じることができるでしょう。
ゲーテと交流のあったエッカーマンが記した『ゲーテとの対話』を例に
具体的な例を挙げてみましょう。エッカーマンが残した『ゲーテとの対話』は、まさに聞くように読みたい一冊です。同書は、晩年のゲーテと深い交流をもったエッカーマンが、ゲーテとの対話を事細かに記録したもので、いかにも、ゲーテが話してくれているという感じで読むことができます。たとえば、次のような内容です。
ときには、死について考えてみないわけにいかない。死を考えても、私は泰然自若としていられる。なぜなら、われわれの精神は、絶対に滅びることのない存在であり、永遠から永遠に向かってたえず活動していくものだとかたく確信しているからだ。それは、太陽と似ており、太陽も、地上にいるわれわれの目には、沈んでいくように見えても、実は、けっして沈むことなく、いつも輝きつづけているのだからね。
(『ゲーテとの対話上』山下肇訳・岩波文庫より)
この本を読んでいくと、「ほうほう、ゲーテはエッカーマンを私たち人類を代表する聞き役にして、私たち人類に叡智のプレゼントをしてくれたのだな」と思えること請け合いです。
そして、本を読みながらそういう「聞く構え」を身につけておくと、普通の人の話を聞くときにも、ちょっと深く聞くということができるようになり、より高いコミュニケーション力を養っていけるようになるのです。
明治大学文学部教授
1960年静岡県生まれ。東京大学法学部卒業。同大大学院教育学研究科博士課程等を経て、現在、明治大学文学部教授。専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。著書は『究極 読書の全技術』(KADOKAWA)、『身体感覚を取り戻す―腰・ハラ文化の再生』(NHKブックス)、『声に出して読みたい日本語』(草思社)、『読書力』(岩波新書)、『コミュニケーション力』(岩波新書)、『三色ボールペンで読む日本語』(角川文庫)、『上機嫌の作法』(角川oneテーマ21)、『質問力』(ちくま文庫)、『コメント力』(ちくま文庫)、『雑談力が上がる話し方』(ダイヤモンド社)、『孤独のチカラ』(新潮文庫)、『12歳までに知っておきたい語彙力図鑑』『12歳までに知っておきたい言い換え図鑑』『12歳までに知っておきたい読解力図鑑』(いずれも日本能率協会マネジメントセンター)など多数。
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