理想のコミュニケーションは、双方が「ああ、そうだったのか、気づかなかったね」と喜び合える瞬間があること
よく、高いコミュニケーション力といえば、ペラペラと論理をまくしたてることだと勘違いされます。しかし、一方的にしゃべりまくる人が高いコミュニケーション力を持っているわけではありません。
私は理想のコミュニケーションとは、クリエイティブな関係性の中で築かれるものだと考えています。
クリエイティブとは、お互いの間に、それまでにはなかった新しいなにかが生まれることです。
たとえば、何らかの知識を持つ人が、ある人にその知識を伝えたとしましょう。そこで、聞き手から質問が発せられ、発信者が答えを返すことで、聞き手は新しい知識と、それまで持っていなかった言葉の新しい意味を獲得することになります。
その効果は一方的なものではありません。聞き手が質問やコメントといった形でアクションを起こすことによって、発信者は自らが発した知識をさらに深め、新しい意味を見出すこともあります。
発信者でさえ、聞き手の反応によって自分が刺激され、進化する。つまり、コミュニケーションを繰り返すことで、お互いにとって新しい意味が生まれていくのです。
それこそ、クリエイティブな関係です。双方が「ああ、そうだったのか、気づかなかったね」と喜び合える瞬間です。
相手の感情を含めて理解し、次の一歩をお互いに探り合う。そうした前向きで肯定的な構えを持ち、クリエイティブな関係性を築くこと。それこそが、高いコミュニケーション力を持つための基本です。
向き合ってつばを飛ばし合い、「一歩も引かないぞ」とばかりに戦い合うイメージではなく、斜め45度で向き合い、半分相手のことを見つつも、もう半分の意識では共に未来を見る。前方を共に見ながら、対話を積み重ねていくという姿勢を、コミュニケーションの基本とするべきだと思うのです。
あなたも、誰かと対話をしていて、それまでは決して思いつくことのなかったようなことが頭に浮かぶという経験をしたことはありませんか?そのとき、なかなか解けなかった謎がスッと解けて、まるで霧が晴れたときのような快感や、脳が活性化してワクワクするような昂揚感に包まれたはずです。
このクリエイティブな関係において、どちらの言うことが正しいかとか、どちらの頭脳が優秀かなどということはまったく関係ないのです。
互いに競い合うのは目的ではありません。今ここで会話をしている中で、新しいものが生まれ出ることにこそ、意味があるのです。
重要なのは、会話を続けることではなく、一つでも具体的なアイデアを出すこと
クリエイティブな関係を構築しようと言われると、なんだかとても難しいことのように感じられるかもしれません。しかし、そんなことはありません。
私はセミナーや講義で、たとえば、ある具体的な課題を出して、それについてのアイデアを受講者に出し合ってもらいます。
課題に関することはなんでも気軽に話すべきですが、必要もないのに無理に会話をする必要はありません。途中で会話が途切れてしまうこともありますが、それでも構いません。
それは、サッカーにたとえるとわかりやすいでしょう。具体的なアイデアを出すのがゴールだとすると、課題とは関係のない話をするのは、バックパスをしているのと同じ状態です。得点に直接つながることはありません。それより、あまり出来がいいとは思えないアイデアでも、ゴールにシュートを放つことが大切なのです。
コミュニケーションにおいて重要なこと。それは調子よくペラペラとしゃべることではありません。一つでもいいから具体的なアイデアを出すこと。つまり、新しい意味を生み出すことが重要なのです。