今回も民事信託で発生しやすい問題について見ていきます。※本連載は、税理士・公認会計士の成田一正氏監修、一般社団法人民事信託活用支援機構理事長の髙橋倫彦氏、同機構理事の石脇俊司執筆の『『危ない』民事信託の見分け方』(日本法令)の中から一部を抜粋し、資産家の相続対策、資産および事業承継対策としての活用が期待される民事信託について、その特徴や問題点、起こりうるトラブルへの対処法を見ていきます。

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「受託者の利益が目的の信託」は信託の定義から外れる

(3)自己信託では対応できない場合等

 

①専ら受託者の利益を図る目的の信託

受託者は受益者として信託の利益を享受することができます(信託法第8条)が、専ら受託者の利益を図る目的の信託は、信託の定義から外れています(信託法第2条第1項)。信託は、受託者が受益権の全部を固有財産で有する状態が1年間継続したときは終了する(同法第163条第2号)とされ、自己信託の受託者は1年間に限って単独受益者になることができます。通説は、自己信託の受託者は当初からも単独受益者になれると解していますが、事後的にしかなれないとの意見もあります(新井誠『信託法〔第4版〕』(有斐閣)P145)。

 

この自己信託の受託者が受益者を兼ねる問題は、受託者以外の者を受益者に追加することで対応することができます。なお、米国においては、同一人が単独受託者と単独受益者を兼ねない場合のみ信託を設定できます(統一信託法典第402条(a)(5))。

 

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②受益者の定めのない信託

自己信託により受益者の定めのない信託を設定することはできません。また、受益者の定めのない信託は、信託契約または遺言によってのみ設定できます(信託法第258条)。

 

③信託の受益権を多数の者が取得することができる場合

1回限りの自己信託であっても、多数の受益者を生じる場合は、受益者の保護を図る必要がありますので、内閣総理大臣の登録を受けなければなりません(信託業法第50条の2)。

民事信託でも受託者が報酬を受けることはできるが・・・

(4)信託業法等の規制の適用の有無

 

信託業とは、信託の引受けを行う営業をいい(信託業法第2条第1項)、信託業は商事信託として信託業法の規制の適用を受けます。

 

さて、信託とは、受託者が信託目的に従い財産の管理等をすべきものとすることをいいます(信託法第2条第1項)。信託行為は、委託者と受託者との契約ないし委託者の単独行為です。信託の引受けとは、受託者が委託者から引き受けることですから、これをしない自己信託は信託業に該当しません。

 

営業とは、営利の目的を持って反復継続して行うことをいうと解されています。営利の目的とは、収入がその実施に要する適正な費用を償う額を超える場合をいい、収入が適正な費用を償う額(収支相償性)の場合は、民事信託でも受託者が報酬を受けることはできます。反復継続の意思を有している場合は、1回しか引き受けなかったとしても営業を行ったと解されています(小出卓哉『逐条解説 信託業法』(清文社)P17)。

 

受託者にとって信託の引受けとは、信託契約の締結等の引受けの意思表示をいい、新信託法に基づく信託契約は要物契約ではありませんので、一個の信託契約に信託財産が追加されても、新たに信託契約を行うことにはなりません。複数の家族の者が、共同委託者として単独の信託契約書を締結するような場合も、同様に思われます。

 

また、受益者は、信託の引受け契約の当事者ではないため、複数の受益者がいても、それは反復継続ではないと思われますが、これらの点については異論があるところです。自己信託の受益権を多数の者が取得できる一定の場合については、顧客である受益者保護の観点から、例外的に規制がされます。

 

さらに、信託受益権の譲渡等に関して、金融商品取引法の適用がある危険もあります。信託の引受けが信託業等に該当し規制を受けるか否かは、金融監督当局に確認することが望ましいでしょう。

 

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本連載は、2016年4月1日刊行の書籍『『危ない』民事信託の見分け方』から抜粋したものです。その後の法改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

「危ない」民事信託の見分け方

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成田 一正 監修 髙橋 倫彦、石脇 俊司 著

日本法令

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