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自社株を承継した子が先代より先に死亡すると…
(3)民事信託の設計と課税
以下で、事例ごとに考えられる信託の設計と、課税の考え方について述べます。
①企業オーナーが後継者の息子に自社株を承継させたが、息子が交通事故で突然亡くなった場合
企業オーナーが後継者の息子に自社株を承継させ、その後、息子が不幸にも突然亡くなった場合、息子が未婚で遺言を書いておらず、息子が贈与税を払って取得した自社株が、息子の死亡によりオーナーの所有に戻ると、オーナーは相続税を支払わざるを得なくなります。
このような悲劇を避けるためには、オーナーが自社株に対して遺言代用信託を設定し、オーナーの死亡の時に息子が受益者になるようにあらかじめ指定しておくことができます(信託法第90条)。
こうすれば、息子がオーナーより先に死亡したとしても、息子がまだ受益権を取得していませんので、息子にもオーナーにも課税がされません。オーナーの死亡の時には相続税がかかります。遺言代用信託ではなく、撤回ができない信託を設定して信託設定時に直ちに息子を受益者に指名した場合は、その時点で、息子に贈与税が課税されます。
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中小企業の事業承継の場合、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律に基づき事業承継する場合は、民法の特例により、生前贈与株式を遺留分の対象から除外し、その株式の評価額をあらかじめ固定し、さらに生前贈与株式に係る相続税・贈与税の納税猶予制度の適用を受けることができます。
しかし、生前贈与の対象の株式を信託し、その受益権を贈与した場合は、この制度の適用が受けられないことには注意が必要です。
②資産を子に贈与し、孫がこれを相続した場合
資産を子に贈与し、孫がこれを相続した場合、通常であれば、子に贈与税が課され、孫が相続した際に、孫に相続税が課されますので、課税回数は2回になります。
これに対して、資産を信託して、受益権を2種類に分割する信託(受益権複層化信託)を設定し、信託期間中に資産の運用から発生する収益を受領する受益者に子を、信託満期に信託元本である資産を受領する受益者に孫をあらかじめ指名する方法もあります。
この場合は、信託の設定時点で、それぞれが取得する受益権の価額に対し、贈与税が課税されますが、両受益権の価額の合計は、信託財産を構成する資産の価額に等しいため、資産に対する課税は1回で済むことになります。
③自社株承継において、第一次相続人が妻、第二次相続人が子の場合
通常であれば、②の場合と同様に、相続税が2回課税されます。
これに対して、自社株を信託して、オーナー死亡時にオーナーから妻へ受益権を遺贈し、妻の死亡時に妻の受益権が消滅し、オーナーから子へ新たな受益権を跡継ぎ遺贈する受益者連続型信託を設定した場合でも、相続税法では、後継ぎ遺贈ではなく受益権がオーナーから妻へ、妻から子へと順次に遺贈して行われたものとみなして相続税が課税されますので、信託を設定しても、通常の相続と課税関係が変わらないことになります。
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④まだ生まれていない孫に資産を贈与する場合
まだ生まれていない孫に資産を贈与する場合、通常は、まず資産を子に贈与し、孫の生誕を待って子が孫に贈与しますので、贈与税が2回課税されます。
これに対して、資産を信託して、受益者をこれから生まれてくる孫にした場合でも、孫は委託者の親族ですから、受益者等が存しない信託の特例により、信託設定時に受託者に対して贈与税が課税され、孫の生誕時に孫に対して贈与税が課税されますので、贈与税が2回かかることに変わりありません(相続税法第9条の4第1項、第9条の5)。
⑤受託者等に信託給付の裁量が与えられている場合
福祉型信託等で信託給付額が支払時期まで不確定である場合は、受益者は特定されていますが、受益権の価額が定まりません。
このような場合は、受益者が指名された時点では信託受益権の評価ができませんので、受益権に対して贈与税は課税されず、信託給付の時期が到来し、給付額が確定し、現に給付が行われた時点で、受益者に課税されるものと考えられます。委託者死亡後は、受託者が信託財産に属する資産・負債を有し、その信託収益・費用は受託者に帰属し、受託者が所得税の申告納税をするものと考えられます。
資産承継信託等において受益者は指名されていても、受益者指定権者により変更される可能性がある場合は、受益者の権利は不確定です。このような場合の税務の取扱いは確立していませんので、所轄の税務署に確認する必要があります。
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