今回は、適正な民事信託運営のために課せられている「受託者の義務」について見ていきます。※本連載は、税理士・公認会計士の成田一正氏監修、一般社団法人民事信託活用支援機構理事長の髙橋倫彦氏、同機構理事の石脇俊司執筆の『『危ない』民事信託の見分け方』(日本法令)の中から一部を抜粋し、資産家の相続対策、資産および事業承継対策としての活用が期待される民事信託について、その特徴や問題点、起こりうるトラブルへの対処法を見ていきます。

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適正な信託の運営は、受託者の「自覚」にかかっている

民事信託といえども、受託者の責任は非常に重いものです。民事信託が適正に運営されるか否かは、受託者の自覚にかかっているともいえます。

 

(1)信託法が定める受託者の主な義務


信託法が定める受託者の主な義務は以下の通りです。

 

①信託事務の自己執行義務(第三者への信託事務処理の委託が制限される。信託法第28条)。第三者へ委託した場合は、受託者に委託先を監督する義務がある(同法第35条第2項)

 

②注意義務(善良なる管理者として注意する義務。同法第29条)。ただし信託行為に別段の定めがあるときは、これを軽減することができる(同条第2項)。

 

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③忠実義務(受託者の自己取引、利益相反行為に制限がある。同法第30条、第31条)

 

④公平義務(同種の複数の受益者は公平に取り扱う必要がある。同法第33条)

 

⑤分別管理義務(信託財産は信託の登記・登録ができる財産、金銭、それ以外の財産などに分けて分別管理する必要がある。同法第34条)

 

⑥信託の事務処理報告義務(受益者などへの報告義務、同法36条、帳簿の作成・保存義務、同法37条等)

商事信託では「信託業法」によって受託者の義務を強化

(2) 商事信託において、信託業法により義務が強化されているもの

 

受託者の義務のうち特に重要なものは、商事信託の場合、信託業法により義務が強化されています。

 

①忠実義務

通常の取引の条件と異なる条件で、かつ、当該条件での取引が信託財産に損害を与えることとなる条件での取引を行うこと、信託の目的、信託財産の状況または信託財産の管理もしくは処分の方針に照らして不必要な取引を行うこと、ならびに信託財産に関する情報を利用して自己または当該信託財産に係る受益者以外の者の利益を図る目的をもって取引を行うことは、自己取引または利益相反行為として自粛しなければなりません(信託業法第29条第1項)。

 

②分別管理義務

受託者は信託財産に属する財産と固有財産および他の信託の信託財産に属する財産とを分別して管理しなければなりません。その管理方法は信託財産の種類により異なります。信託業務の外部委託に関しては厳しい管理が要求されます(信託業法第22条、第23条)。

 

不動産など信託の登記または登録をすることができる財産は、登記または登録によります。不動産の信託においては、所有権の名義を受託者に移転登記し、さらに信託契約の要点を記した信託の登記をします。所有権の移転登記の登録免許税は非課税であり(登録免許税法第7条第1項)、信託の登記の登録免許税は税率が優遇されています(同法別表第1、1(10))。

 

不動産や車両のように登記または登録をしなければ権利の得喪および変更を第三者に対抗することができない財産については、信託の登記または登録をしなければ、当該財産が信託財産に属することを第三者に対抗することができません(信託法第14条)。

 

預金に関しては、委託者名義の預金口座から受託者名義の預金口座(「受託者○○信託口」等の名称の口座)に振り替えなければ分別管理したことになりません。また、保険も保険金受取人を受託者名義に代える必要があります。

 

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本連載は、2016年4月1日刊行の書籍『『危ない』民事信託の見分け方』から抜粋したものです。その後の法改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

「危ない」民事信託の見分け方

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成田 一正 監修 髙橋 倫彦、石脇 俊司 著

日本法令

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