「G7で最下位…韓国にも抜かれた…」いつまでも賃金が上がらず「一人負け」し続ける日本の悲惨な現状【元IMFエコノミストが解説】

「G7で最下位…韓国にも抜かれた…」いつまでも賃金が上がらず「一人負け」し続ける日本の悲惨な現状【元IMFエコノミストが解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

日本においては、物価高にも関わらず賃金がほとんど上がりません。この状況が作り出された原因とは一体何なのでしょうか。本連載では、元IMF(国際通貨基金)エコノミストで東京都立大学経済経営学部教授の宮本弘曉氏が、著書『51のデータが明かす日本経済の構造 物価高・低賃金の根本原因』(PHP研究所)から日本経済の問題点について解説します。

実質賃金と賃金成長率

ところで、賃金をみる際には、「名目賃金」と「実質賃金」を区別することが重要です。名目賃金とは労働者が受け取る額面の賃金そのもののことです。

 

たとえば、毎月の給与が30万円であれば、名目賃金は30万円ということになります。これまでに紹介した日本の賃金はすべて名目賃金です。これに対して、実質賃金とは、名目賃金を物価水準で調整したものです。

 

実質賃金は、労働者が受け取る賃金で実際にどれだけのモノやサービスが購入できるかを表しています。

 

私たちの生活水準の変化をみる際には、名目賃金ではなく、実質賃金の動きをみることが重要です。例えば、昨年、毎月30万円の賃金をもらっていた人が、今年は毎月30万6,000円の賃金をもらうことになったとしましょう。この場合、名目賃金はこの1年間で2%増えたことになります。

 

では、この人の生活水準はその分、上がったと言えるでしょうか? 答えは物価の動向に依存します。もしこの1年間で、モノやサービスの価格が2%上昇していれば、この人の生活水準に変化はありません。

 

しかし、インフレ率が2%より高ければ、名目賃金は増えていても、生活水準は低下することになります。つまり、人々の暮らしが豊かになるかどうかは実質賃金がどのように変化するかにかかっています。

 

そこで、実質賃金の動きを確認しておきましょう。再び、[図表3]をみてください。

 

[図表3]賃金の推移(1997年=100とした場合)

 

[図表3]の「時給」の項目には、名目賃金の推移に加え、実質賃金の推移も示されています。ここでは、時給の名目賃金を物価水準の指標である消費者物価指数で割ったものを掲載しています。

 

また、1997年の実質賃金を100として基準化した指数で表しています。

 

[図表3]からは、実質賃金と名目賃金の動きに大きな差はないことがわかります。実質賃金は1990年代後半まで上昇傾向にありましたが、1997年をピークに下落に転じています。ただし、その下落幅は名目賃金よりも若干ですが小さくなっています。

 

これはこの間、デフレで物価上昇率がマイナスだったためです。その後、実質賃金は2015年を底に再び上昇していますが、ピーク時の値までは回復していません。

 

また、ここまでは賃金の動向をレベル別に注目してみてきましたが、賃金の成長率についてもみてみましょう。[図表5]は時給の賃金成長率を名目と実質、ともに示したものです。

 

[図表5]賃金成長率の推移

 

賃金成長率は1990年代初頭には高い値でしたが、その後、低下し続け、90年代後半にはマイナスとなりました。2000年代の平均成長率は名目賃金でマイナス0.5%、実質賃金でマイナス0.2%となっています。

 

アベノミクスが始まった2013年から新型コロナウイルスによるパンデミック前の2019年までの間では、賃金成長率の平均は名目で1.1%、実質で0.3%となっています。

 

 

宮本 弘曉

東京都立大学経済経営学部

教授

 

51のデータが明かす日本経済の構造 物価高・低賃金の根本原因

51のデータが明かす日本経済の構造 物価高・低賃金の根本原因

宮本 弘曉

PHP研究所

●この30年で平均所得は100万円下落……なぜ日本の賃金は上がらない? ●理由は、国民が平等に貧しくなる「未熟な資本主義」にあった! ●元IMFエコノミストがデータで示す「歪んだ経済構造とその処方箋」! 物価の高騰、…

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