日本の賃金の動向
ここであらためて日本の賃金の動きを確認しておきましょう。
厚生労働省「毎月勤労統計調査」によると、2021年の給与額(現金給与総額)は月額31万9,461円、年額383.3万円となっています。
就業形態別にみると、一般労働者の月給は41万9,500円、パートタイム労働者の月給が9万9,532円となっており、両者の差は年間で約384万円にのぼります。
次に、賃金がこれまでどのように推移したのかをみましょう。
[図表3]には1997年の賃金を100としたときの、「現金給与総額(月給、名目)」の推移が示されています。
日本の賃金は1997年までは上昇し続け、その後は2000年代初頭のITバブル崩壊や2008年のリーマン・ショックなどがあり、2009年まで低下傾向にありました。ここ10年ほどは横ばい、あるいは若干上昇していますが、2021年の数字は89とピーク時よりも10%も低くなっています。
また、この数字は1990年代初頭のものとほぼ同じであり、日本の賃金は30年前とほぼ変わっていないことがわかります。
また、月給は労働時間によっても左右されます。そこで、月給を月の労働時間で割った「時給」についても、その動きを確認しておきましょう。
時給をみることは、正社員とパートやアルバイトといった非正社員の賃金を比較する際に特に重要です。というのも、正社員の多くは月給で賃金を受け取っており、基本給が労働時間や日数によって左右されないのに対して、非正社員の賃金は時給ベースで、労働時間に応じて支払われることが多いからです。
[図表3]の「時給(名目)」の動きから、時給でみても日本の賃金は1997年にピークを迎え、その後、しばらく低下傾向にあったことがわかります。
しかし、2012年を底に再び上昇し、2020年には1997年の水準まで回復しています。このように月給と時給では賃金の動向に若干の差がありますが、賃金が25年前から大きく上昇しなかったという点は共通しています。
さて、毎月勤労統計調査の現金給与総額は、大きく、定例給与と残業代を合わせた「毎月決まって支給する給与」とボーナスなどの「特別給与」の2つに分けられます。[図表4]は時給ベースの現金給与総額とその内訳の推移を示したものです。
毎月決まって支給する給与の動きは1990年代後半までは上昇、その後は長期にわたり停滞し、コロナ禍前の数年間は再び上昇傾向にありました。
それに対して、特別給与は1997年をピークに15年ほど減少し続けました。2012年以降、増加傾向にありますが、2021年の数字はピーク時よりも15%ほど低くなっています。
ここからわかる重要な視点として、現金給与総額が増えている局面では、その裏で、毎月決まって支給する給与が増えていることがあげられます。これは、賃金が上がるためには、毎月決まって支給する給与が持続的に上がる必要があることを意味しています。