じつは…相談者と「お母さん」の過去
実は以前、相談を受けたのは、「遺言を書く直前に叔母が事故で意識をなくしてしまった」というものだった。
「お母さん」というのは、長年親子同然に暮らしてきた叔母のこと。叔母に実子はなく、兄弟姉妹が8人。今生きているのは相談者の父親である弟だけだった。
遺言がないまま叔母の相続が発生すると、甥や姪たちも相続人となるため、総勢15人超の遺産分割協議になってしまう。
相談者の彼女は父親がいるため、叔母の相続人ではない。だからこそ叔母の遺言が必要だった。
私は叔母の安定を待って、彼女と叔母が養子縁組することをすすめた。なんとか正式な「母と子」になって2年目が、今だ。今度もまた、叔母の意識障害で苦しめられている。
電話だけでは脳神経科医がなぜ上述のような狂ったようなことを言うのか、さっぱり分からない。
実母でなくとも「唯一の法定相続人」であることに変わりはない。にも関わらず…
彼女は叔母(お母さん)の唯一の法定相続人である。母に成年後見人を付けようが付けまいが、母が亡くなれば当然に全財産は彼女が相続することになる(養子は相続において、実子と同等の権利を得る。第1位の相続人である)。れっきとした相続人がいるのに、遺産が国のものになるわけがない!
人が意識障害になると、(あるいはひどい認知症の場合も同じだが)成年後見人を付けないとその人の財産は、家族にではなく国庫に収納されるのであろうか?
医師の勘違いであるか、または知識不足である。にしてもひどい!
専門家は自分の言葉に責任を持ってほしい。成年後見や相続順位は、医師にとっては畑違いの“法律の話”かもしれない。
しかしこの医師は、脳神経科医である。認知症患者の診断もしばしば行う。人が認知症になり、症状が悪化すればどうなるか。専門医なら、これまでにも成年後見人には会ったことがあるはずだ。
認知症と成年後見制度は深いかかわりを持つ。どんなに世事にうとい医師でも、脳神経の問題を扱っている以上、「成年後見」は自分の仕事の範ちゅうに入っていなければおかしい。
被後見人の死亡によって後見は終わる。お役御免、後見人は退場だ。去っていくだけの元後見人の存在のあるなしが、その後の相続に関係するわけがない。
どういったつもりでこの医師は、ありもしない(あり得ない)話を持ち出して、無理にも彼女に「成年後見」を説得しようとしたのか? さっさと診断書を書いてくれればいいだけのことであった。
それを避けたというのは、成年後見制度抜きに判断能力が欠けた人の財産を動かすことに(自分も加担するのか、と)恐れたのだろうか。