成年後見人を引っ張り出せば、とりあえず医師は“安全なところ”にいられる。専門家が(どの分野の専門家でもだ!)そんな風に考える人ばかりになったら、後見被害は増えるばかりになるであろう。
世の中がこうした流れになってしまうことが、非常に怖い。少し知恵を回せば、必要な人に(自分が貯めてきてお金を)自分のために使ってもらうことができる。
せっかく銀行が《そうしてあげよう》と勇気を奮い起こしたのに、医師がためらい成年後見に丸投げすれば、善意や知恵は活かされない。架空の話で脅して成年後見申立てに追い込む張本人なろうなんて、「成年後見=よいこと教」の使途にでもなってしまったのだろうか。
年額5、60万円の後見費用…やむなく選択する日は来るかもしれない
私は100%成年後見制度を否定しているわけではない。「お母さん」は90歳である。
今回は銀行の臨機応変な対応で、成年後見人を付けなくても大きなお金を動かすことができそうだった。次もまたそうなるとは限らない。
意思能力を示せない人が大きなお金を動かそうとしたら、銀行は十中八九それを止める。
預金者が認知症ならなおさらだ(脳梗塞には同情的でも、「認知症」には容赦ない)。「口座凍結だ」ということになる。いったん凍結されるや、大金を動かせるのは公的後見人だけになる。そういう時代になった。
もし、次に彼女がお金に困り、銀行も気の利いた対応をしてくれない場合には、成年後見人を頼むしかないかもしれない。
後見費用──年額5、60万円は痛いが、お母さんの余命を考えれば出費がいつまでも続くわけではない。その意味では「やむなく頼む」という選択もいずれ出て来るかもしれない。
しかし、今が、そのときでは絶対にない。
医師は御託を並べていないで診断書を書きなさい。(病気を“値切れ”といっているのではなく、状態を正しく書けばいいのだ)そしてお願いだから、成年後見制度のことをもう少し勉強してほしい。
「医療」という限定された知識の中だけだとしても、専門医、専門家としてご飯を食べている。一般の人に尊敬されるのが医者だ。へたな冗談でも患者や家族は恐れ入る。《私たちよりは知っている》と思うのだ。
そういった職業人に、うっかりや勘違いは許されない。まして意図的にミスリードするのは、断じて禁止である。病気が引き起こす周囲への影響についてもしっかり勉強して、訪ねてきたお客様にウソをつかないよう…心の底からお願いする。
石川 秀樹
静岡県家族信託協会 行政書士