人々それぞれの役割を明確化した「刀狩り」
秀吉は、太閤検地の導入と同じころ、「刀狩令」を出して農民から武器を取り上げます。さらに「身分統制令」によって武士、商人、農民のそれぞれの身分を固定し、ほかの職業になることを禁止しました。
戦国時代は、農民も武器を所有していて、戦に加わるのが普通でした。しかし平和な世のなかでは、農民の武器は一揆のリスクを高めるものでしかありません。秀吉は、農民が武器を常備し、いつでも武士になれる戦国時代の習慣を改める必要があると考えました。太閤検地、刀狩令、身分統制令を同時に推進し、うまく「兵農分離」を完成させたのです。
秀吉は、これらの施策を通じて国内の生産量、つまり経済力を飛躍的に伸ばしたうえ、生産量に応じた軍役を各地の大名に課したことで、一度に大量の軍の動員を可能にしました。
また、刀狩令や身分統制令は、農民が武器を持って戦わなくてよくなった証でもあります。秀吉の政策はすべて、来るべき平和な社会の基盤を整備するためのものでした。農民出身の秀吉には、年貢を不当に搾取される仕組みや、農民が戦わなければならない世の中を変えたいと、強く願う気持ちがあったのかもしれません。
組織のなかでの役割を明確にする
刀狩りや身分統制令に倣って、組織内で上司に歯向かう芽を摘み取りましょうとか、個人としての序列をつくったり担当業務を固定したりしましょうといいたいのではありません。組織のなかで役割が曖昧になっている人を出さないことが大事だと強調したいのです。
各人の役割が曖昧であることの弊害は、組織内で本来なにをすればよいのかという迷いがメンバーに生じてしまうこと。そして、そのメンバーが組織から求められていることと異なったことをしてしまう恐れがあることです。あなたの組織でもこんなことはありませんか?
・「課長代理」や「副主任」の役割の違いが不明
・期待してチームリーダーに任命したのに思ったような活躍をしてくれない
・「主任なんだから」といわれたけれどなにを指摘されているかよくわからない
・課長代理だが課長とメンバー間の伝書鳩役みたいで自分でなにかを決められない
このように、組織のメンバーの役割が不明確であることもまた、非効率すなわちロスタイムを生んでしまいます。任命した側は役職を設定すればそれに付帯する役割まで理解してくれるだろうという錯覚を起こしがちです。
たとえば、あなたが少年野球チームの監督をしていて、ノーアウトランナー1塁の場面で、2番打者に打順が回ってきたとします。あなたはサインを出さずとも、バッターが送りバントか繋ぎのバッティングをしてくれると思っているかもしれません。これがポジションだけを設定した状態です。
それに対し、メジャーリーガー大谷翔平選手の活躍に目を輝かせている少年は、「2番打者だからこそ大谷選手のようにホームランを狙うんだ」という意気込みで打席に入っているかもしれません。このように設定したポシションにどのような役割が付帯しているかということも、明確にする必要があります。
奥田 拓之
株式会社識学
東京営業二課 係長/シニアコンサルタント
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