(※写真はイメージです/PIXTA)

「脱デフレ」を掲げたアベノミクスはそれまでの超円高を是正し、輸出を増やし、企業収益を好転させました。しかし、GDP、設備投資、賃金を圧倒し、突出して増えてきたのが利益剰余金でした。ジャーナリストの田村秀男氏が著書『日本経済は再生できるか 「豊かな暮らし」を取り戻す最後の処方箋』(ワニブックスPLUS新書)で解説します。

円安を追い風に国内設備投資を拡大

■円安を日本再生の好機に変える

 

円安で狼狽え、「日銀は金利を引き上げよ、量的緩和をやめよ」と言うのもおかしな話です。

 

まず、消費者物価が2パーセント以上上がっているからといって、デフレから脱したわけではありません。米欧のインフレ率が8パーセント以上なのに、日本だけが2パーセント台というのは、エネルギーや穀物価格の上昇分を企業が販売価格に転嫁できない、即ち、需要が萎縮していることの証拠です。実質的にはデフレ圧力が大きいことを意味します。

 

また、消費者物価上昇に対する円安の影響度は2割程度だとされています。

 

繰り返します。円安は輸入コストを余計に押し上げ、家計や中小零細企業を苦しめます。そこでメディアには「悪い円安」論が横行し、鈴木俊一財務相までもが同調する始末です。

 

経済評論家の一部も日銀はただちに超金融緩和政策を打ち切り、金利を引き上げろと言い出していますが、需要拡大のためにインフレが昂進する米欧と日本を混同しています。需要が不足する慢性デフレの日本は、利上げすれば経済の収縮が一層進みます。それを無視した暴論です。

 

必要なのは、円安を日本経済再生の好機に変える政策です。

 

現下の急激な円安は投機の産物です。FRBの追加利上げが連続し、国際金融市場では投資ファンドが日米金利差拡大を見込んで円を売り浴びせます。だからといって、日銀がマイナス金利と量的緩和を慌てて打ち切ったとしても、投機勢力に付け込まれ、翻弄されるだけでしょう。

 

日銀の異次元金融緩和は0パーセント以下の短期金利(政策金利)と、市場で出回る国債の大量買い上げ、つまり量的緩和による長期金利0パーセントの二本柱で構成されています。

 

景気の停滞が深刻である以上、日銀は利上げできません。高インフレ率の米国はさらなる大幅利上げが確実なので、日米金利差拡大は防げません。

 

量的緩和の打ち切りとは、国債の買い上げを大幅に縮小して国債金利の上昇を放置することですが、そのときは政府が新規に発行する国債の金利が上がり、財政面での金利負担を大幅に増やします。財務省の試算では18パーセントの金利上昇で3.7兆円の負担増となります。だからこそ緊縮財政が財務省の路線となるのですが、そうなると国内需要の萎縮は加速し、国民全般の貧困化がさらに進みます。

 

さらに投機勢力の日本売りは国債にとどまらず株式にも広がる一方、中国資本は安い日本の企業や国土をますます買い上げ、我が物にするでしょう。

 

したがって、異次元緩和政策を堅持するしかありませんが、より重要なのは財政政策のほうです。円安を日本再生手段として活かすうえで、財政がカギを握るからです。

 

円安は日本企業の輸出競争力を高め、国内での設備投資を後押しします。同時に日本企業が海外で稼ぐ所得をかさ上げします。資本主義経済の活力の源泉は国内での設備投資です。それは雇用を増やし、人材を育て、技術革新を促すからです。

 

2012年末に始まったアベノミクスは超円高を是正し、企業の設備投資を増勢に転じさせましたが、力強さと持続性に欠けました。消費税増税と歳出削減による緊縮財政のために、デフレから脱出できず、内需が抑えられたためです。

 

企業は円安になると海外収益を大きく増やします。ところが、これまではデフレのために萎縮する国内市場では投資収益が上がらないと見て、海外収益の大半を現地での再投資に回してきたのです。

 

政府は緊縮財政をやめ、成長分野への財政資金投入をすすめて内需を押し上げ、円安を追い風にして国内設備投資を拡大させるべきです。

 

他方で、円安を享受できるのは主に輸出企業であり、内需依存の中小零細企業やサービス業は輸入原材料コスト負担増というマイナスが大きいとの反論があります。

 

しかし、日本の経済構造は輸出主導型に変じています。GDP(国内総生産)に占める輸出の比率は2021年には18.4パーセントで、2001年の10パーセントから大きく増えました。

 

岩田規久男前日銀副総裁によれば、円安のためにコスト高になっても、日本経済全体としてはそのマイナス効果を相殺してなおプラス効果が生まれるという計算が成り立つと言います。

 

内需型業種自体、輸出増による波及効果を享受できます。そこに財政支出の拡大が加われば、産業界全体で設備投資が活気づくでしょう。

 

次ページ突出して増えてきたのは利益剰余金

本連載は田村秀男氏の著書『日本経済は再生できるか 「豊かな暮らし」を取り戻す最後の処方箋』(ワニブックスPLUS新書)より一部を抜粋し、再編集したものです。

日本経済は再生できるか

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田村 秀男

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