高齢者を閉じ込めてはいけない理由
■安心して老いるための介護保険制度であってほしい
あまりに介護保険制度の中で自立支援がうたわれ過ぎると、要介護状態になった人が自己責任だと言われる風潮が出てこないかと心配します。
高齢になったら身体も脳も老います。それには個人差が大きいのです。
この連載でも、いつまでも元気にいられるために運動したり、食生活や好奇心を大事にしたりしながら元気でいるためのアドバイスを書いてきました。
それは大事な生活術ですが、どんなにがんばっていても病気や怪我で老化が早まることもあります。遺伝子レベルの違いもあります。本人の努力だけではどうにもならないこともあります。
そういうときは、安心して老いていいのだという社会のフォローがあると安心なのです。
できるだけ自立してがんばろうね、倒れたときは共助、公助でなんとかするから、という安心感があれば、安心して老いることができます。それが介護保険制度だと思います。
私が東京・杉並の高齢者専門病院に勤務し始めたのは、1988年のことです。
1999年には認知症の薬としてアリセプト(アルツハイマー型認知症およびレビー小体型認知症の症状進行を抑制する薬)が登場しました。2000年には介護保険制度がスタートしました。
そして、現在の認知症の方を診ると、80年代や90年代に比べ、認知症の症状の進行はあきらかに遅くなっています。
それは薬のおかげというより、介護保険制度の手柄かもしれません。
1980年代までは、都会では認知症と診断されれば、家か病院に閉じ込められたものです。家族に認知症の方がいるというのが恥ずかしいと思われた時代です。介護保険制度がスタートした頃も、「介護施設の車が家の前に停まるのは嫌だ」と拒否する家族や本人がいました。
最近では、「うちのおばあちゃんは週に2回デイサービスに行っているから」とオープンに話す家族や、「ヘルパーさんが来て助かっています」と言う当事者の方が増えてきました。
高齢者を閉じ込めないで、家族以外の人と交流したり運動したりしているのが、認知症の進行をゆるやかにしていると思うのです。
老いて障害を持ち、ボケたりするのは当たり前で、それを隠さず支え合っていける世の中にするために啓蒙していった介護保険制度は、ひとつの役割は果たしたのかもしれません。
和田 秀樹
和田秀樹こころと体のクリニック 院長
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