
企業が従業員の健康を気遣い、手厚い福利厚生を設けたり、デジタルデバイスを利用して体調を管理させたりする事例が相次いでいる。少子・高齢化を背景とした人手不足が深刻となっていることや新型コロナウイルスの感染拡大などが背景にある。国連が2015年に採択したSDGs(持続可能な開発目標)では、「すべての人に健康と福祉を(目標3)」、「働きがいも経済成長も(目標8)」を掲げている。企業は自社のブランディングの一環としても従業員の健康サポートを充実し、目標を達成しようとしている。この連載では、全国で法人向けの出張マッサージサービスを手掛ける株式会社イーヤス(名古屋市)の遠藤基平社長が、その経験をもとに「健康SDGs」を実践する企業を紹介し、その意義を具体的に解説する。
従業員の歯や歯周組織など口腔(こうくう)内の健康をサポートする企業がじわりと増えています。
歯痛により会社を休んだり、仕事に集中できなかったりすることは珍しくありません。歯周病による炎症がさまざまな病気を引き起こすこともあります。従業員の歯や歯周組織の不具合は心身の不調と同様、企業の生産性に悪影響を及ぼすのです。
歯科検診は法的には企業の義務になっていませんが、「健康SDGs」の先進企業はすでに対策を始めています。今回は、従業員の歯をはじめとした「口腔」の健康状態を改善しようとする企業の取組みを紹介します。
口腔保健指導などの導入で健康診断も改善
製造業のY社(従業員360名)は、2019年から歯科検診と口腔保健指導の研修を始めました。産業歯科医を講師に招き、毎年社員でテーマを決めて研修を実施しています。今のところ参加者は50名前後にとどまっていますが、参加者の9割が内容に満足しているそうです。
Y社がこうした研修を実施しているのは、従業員の歯痛を抑えるためだけではありません。口腔内の病気が、社員の健康全体に悪影響を及ぼすリスクを軽減することも目指しています。
歯周病の場合、その炎症によって出てくる毒性物質が歯肉の血管から全身に入り、血糖値を下げるインスリンの働きを悪くさせます。これにより、糖尿病につながったり、早産・低体重児出産・肥満・血管の動脈硬化などにも関わったりするとされています。
同社の従業員の平均年齢は48歳と比較的高く、健康診断で異常がみられた「有所見率」も高いことが課題となっていました。口腔保健指導などを取り入れたことを受けて、健康診断の有所見率は毎年約3%ずつ低下しているそうです。