日本企業の競争力向上を促す「ウェルビーイング」経営とは?
世界保健機構(WHO)憲章は、健康の定義にウェルビーイング(Well-being、心身の健康や幸福)という言葉を用いて、「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、社会的にもすべてが満たされた状態であること」としています。健康や福祉といった幸せに加え、働くことで得られる社会的な幸福感も達成されている状況を「ウェルビーイングな状態」と言います。
ウェルビーイングな状態にある従業員は業務能力が高く、企業に好影響をもたらします。今回は、ウェルビーイング経営に取り組む企業を紹介します。
社員の食生活やメンタルヘルスをサポートする医療機器メーカー
「世界で一番健康的な社員」を目指している医療機器メーカーのJ社は、「食生活」「運動」「メンタルヘルス」に特に力を入れ、ウェルビーイング経営を目指しています。90分集中して仕事をしたら小休憩を挟み、飲食や体を動かすことでリフレッシュする時間をとる制度をつくり、毎日オンラインでストレッチやエクササイズのレッスンを配信。今では半数の社員がこのレッスンを利用しています。
2018年からは、社内にはジムエリアやマッサージルーム、瞑想ルームを設け、19年からは禁煙サポートプログラムもスタートさせています。社内に瞑想スペースを設置することで、朝の出社直後に頭をスッキリさせる、午後の集中力を高める、仕事後に気持ちを落ち着けるなどの使い方ができ、ストレスケアに役立っているそうです。
福利厚生の拡充などで離職者がゼロに
独自技術の開発力と卓越した精密機械の製造技術により、業績好調のT社では、人材不足と離職者の増加が課題でした。このため、2020年からウェルビーイング経営を進めています。
同社では例えば、プライベートの充実をサポートし、フィットネスクラブとの契約、旅行代補助、映画観賞券の配布などの福利厚生を拡充しました。また自社ビル内にはカフェテリアを新設し、社員間のコミュニケーションの場としました。これまでは健康診断やメンタルヘルスチェックを年1回実施するだけでした。こうした経営努力を受けて、直近3年の離職者はゼロ。毎年、順調に新規採用もできているそうです。
日本では、少子・高齢化を受けて生産年齢人口が減少。多くの企業が人材不足に直面しています。雇用の流動化も進み、高年収を謳うだけでは有能な人材を集めることはできなくなりました。人材採用の難易度が高まっている中、企業には「求職者や従業員にとって魅力的な環境づくり」が求められるようになってきています。T社のように自社の好業績に慢心せず、従業員の満足度向上に努力する姿勢が必要になってくると言えるでしょう。
ウェルビーイングの専門部署を設置、イベント実施
ここ数年、繁忙期が続いた医薬品メーカーA社。22年に社内で集計した健康アンケートで、65%の社員が「休日も仕事のことが気になって落ち着かない」という結果がでたことを機に、専門部署の「ウェルビーイング推進部」を設置しました。
ストレス度の高い社員やオンとオフの切り替えが上手くいっていない社員が多いことから、快眠セミナーやマッサージ、ヨガのイベントを実施。ウォーキングイベントや禁煙チャレンジプログラムなどの施策にも取り組み始めました。まだこうした取り組みは始めたばかりですが、8割以上の社員が何らかのイベントに参加しています。多くの社員は会社の姿勢を評価していて、会社側も今後、社員アンケートなどで効果測定や施策の改善を図る予定です。
ウェルビーイング経営とは生活習慣病やメンタルヘルス不全の予防だけでなく、従業員の仕事へのやる気や組織へのエンゲージメント(働きがい、会社への帰属意識)を高めようとする経営手法のことです。従業員にとっては、会社が健康で安心して働ける職場をつくろうとする姿勢を示すこと自体が、ウェルビーイングに近づくと言えるでしょう。
ハーバードビジネスレビューに発表された研究成果によると、幸福感の高い社員はそうでない社員と比べて創造性は3倍、生産性は31%、売上は37%高いそうです。幸福度の高い社員は欠勤率が41%、離職率が59%低く、業務上の事故も70%少ないとの結果も出ています。ウェルビーイング経営は、日本企業の生産性向上や人手不足への対応、ひいては競争力の向上につながる重要な施策なのです。
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