(※写真はイメージです/PIXTA)

企業が従業員の健康を気遣い、手厚い福利厚生を設けたり、デジタルデバイスを利用して体調を管理させたりする事例が相次いでいる。少子・高齢化を背景とした人手不足が深刻となっていることや新型コロナウイルスの感染拡大などが背景にある。国連が2015年に採択したSDGs(持続可能な開発目標)では、「すべての人に健康と福祉を(目標3)」、「働きがいも経済成長も(目標8)」を掲げている。企業は自社のブランディングの一環としても従業員の健康サポートを充実し、目標を達成しようとしている。この連載では、全国で法人向けの出張マッサージサービスを手掛ける株式会社イーヤス(名古屋市)の遠藤基平社長が、その経験をもとに「健康SDGs」を実践する企業を紹介し、その意義を具体的に解説する。

 

「歯科ドッグ」や歯のメンテ費補助、優秀な人材採用にもプラス

 

健康関連のコンテンツを制作するIT企業のR社は、福利厚生の一環として「歯科メンテンナス手当」を支給しています。1ヵ月に1回まで歯石の除去など口腔内のメンテンナンス費用を会社が全額負担していて、18名いる社員全員が利用しています。

 

口腔内のケアにまで会社がお金を出してくれることが「人に投資を惜しまない会社」「社員を大事にする会社」というイメージにつながり、採用にもプラスになっているそうです。

 

従来の歯科検診よりも精密な「歯科ドック」を推奨する企業も出てきました。歯科ドックとは、簡単にいうと「口の人間ドック」です。問診や視診・触診、レントゲンやCT画像の撮影、唾液検査などにより、口腔内の健康状態を総合的にチェックします。

 

通信機器業のN社は、従業員が歯科ドックを受診する場合、年1回15,000円の補助(自己負担は3,000円)をしています。割安で歯科ドックを受けられることから、社員の6割が利用しているそうです。

 

社内アンケートでは、「虫歯の早期発見により治療が短期間で済んだ」「歯周病知識の取得や嚙み合わせの改善につながった」などの声があったそうです。歯科検診業者による調査では、働く30代女性の72%が歯科ドック検診を導入している企業に「好感がもてる」としており、受診料の補助を導入する企業は今後も増える可能性があります。

 

「国民皆歯科検診」を検討、対応を迫られる企業

こうした動きの背景には、口腔の健康への意識が高まっていることがあります。歯周病患者は、自覚していない人も含めると日本国内で400万人前後もいるといわれています。

 

歯周病が悪化すると、歯を失ってしまうだけでなく、糖尿病など多くの病気を引き起こすリスクがあります。しかし、日本では大人になると歯科検診を受けることがなくなるのが実情です。

 

こうした問題は、ひっ迫している国の医療保険財政にも悪影響を及ぼします。口腔内の健康状態の悪化やそれに伴う病気が広がれば、医療費全体の増加につながるためです。

 

政府は2022年6月に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」に、毎年の歯科検診を義務付ける「国民皆歯科健診」を推進することを明記しました。こうした国の方針を受けて、現在は対策を講じていない企業も今後、対応を迫られる可能性があります。

 

企業にとっても、従業員の口腔の健康対策を実施するメリットは少なくありません。その1つは、歯周病をきっかけとした従業員の病気の発症リスクを抑制できることです。社員の健康状態を改善できれば仕事の能率が高まり、離職率も低下するでしょう。

 

「社員の健康増進に積極的に取り組む先進企業」としてイメージが向上すれば、優秀な人材の採用力も向上します。今後は「従業員の歯の健康状態の改善に取り組む」という企業の健康SDGsの流れがさらに強まりそうです。

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