がんで年収2割減少? 企業があの手この手の「がん対策」
日本人の死因で最も多いのが「がん」です。厚生労働省などによると、日本人の2人に1人ががんになり、3人に1人はがんで亡くなるそうです。今後「がん罹患の若年化」「定年延長」や「女性の社会進出」のなどで、企業で働くがん患者も増えていくと考えられます。企業にとっても、がんによる人材損失リスクは上昇の一途となっており、企業のがん対策は、今や「福利厚生」ではなく「経営課題」と言えるでしょう。
一方で働く側にとっても、がんは大きな問題です。ライフネット生命の調査によると、働いているときにがんを発症した人は、休職したり仕事量を抑えたりした影響で、年収が2割減少したそうです。こうした状況を受けて、企業も従業員の「がん対策」に乗り出しています。
会社全体で「がん保険」加入など
岐阜県の製造業A社では、工場長が肺がんと診断された時に業務を引き継げる社員がいませんでした。そのため、工場長は入院中もベッドからメールで部下とやりとりをしていたそうです。
この経験を踏まえて、同社は社員がいつでもお互いの仕事を補い合えるよう、多能工化(1人で複数の業務や工程を担当できるようにする仕組み)の推進に取り組みはじめたそうです。誰でも休みを取りやすい職場は、がん患者はもちろん、子育てや介護をする人にとっても働きやすい職場になります。がんにかかった社員のサポート体制を整えることで、逆に社員のやる気が高まります。社員同士で支え合う文化も醸成され、結果的に生産性向上や業績拡大につながるのではないかと考えます。
建設会社のT社(大阪府)は、2019年に福利厚生の一環損害保険会社の「がん保険」に加入しました。若手の人材不足と共に従業員の年齢層が高くなってきたためです。社員の負担金はゼロですが、補償領域が広く、社員が安心して働けるようになりました。
加入後に、がんが見つかった幹部社員がいました。本人は病気の不安と共に経済的不安が多かったそうですが、保険金で治療費をまかなえ、6週間の入院を経て、また仕事に復帰したそうです。罹患した社員は会社への感謝から帰属意識も高まり、このケースが他の社員の安心感にも繋がっているようでした。
「がん教育」の動画配信やオンラインでの健康相談も
電子機器メーカーのF社(東京都)は、2020年から「がん予防と、治療と仕事の両立支援」というテーマを掲げ、社員向けのがん教育をしています。がんの専門医による定期的なオンライン研修や、e-Learning形式で動画の配信を社内で展開。がんの基礎知識や、予防のための生活習慣、早期発見の為のがん検診の重要性などを社員へ配信しています。従業員の50%以上が取り組みに参加。今後も毎年継続して実施していく予定です。
情報サービス業のE社(東京都)は、2021年から従業員やその家族が医師・看護師にオンラインで健康相談ができるサービスを導入しました。このサービスには多数の医師・看護師が在籍しており、相談内容に合わせた専門医からの回答が得られます。
E社の70歳の男性社員が健康診断で早期の胃がんが発見されました。主治医は外科手術で胃の2/3切除が必要との判断でした。ところが、このサービスの専門医に相談をしたところ、3名の医師から内視鏡手術で対応可能との見解をもらいました。結果として、内視鏡手術を実施し、経過も良好だそうです。
がんで年収減の原因、35%が「休職」
ライフネット生命の調査によると、働いているときにがんを発症した人は、休職したり仕事量を抑えたりした影響で、年収が20%減少したそうです。
医療費や生活費などの支払いに困る人も多く、がんとの闘病による影響の深刻さがうかがえます。年収減少の原因としては、35%が「休職」によるものとされ、次いで「業務量の減少」や「退職」「転職」となっています。
同調査によると、企業のがん経験者への治療と仕事の両立支援については、罹患時の勤務先で「サポート制度自体がなかった」(43%)がもっとも多かったそうです。今回取り上げた企業のように従業員のがん対策を積極的に実施する企業は、従業員からの信頼が高まり、生産性も改善するのではないでしょうか。
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