(写真はイメージです/PIXTA)

現在、米国では労働市場・金融市場ともに常識では説明のつかない「好都合すぎる現象」が頻発していると、株式会社武者リサーチ代表の武者陵司氏はいいます。いま、米国市場でなにが起こっているのでしょうか。この「謎」の正体と今後の米国経済の展望を探っていきます。

労働需給ひっ迫のなか、賃金上昇率は「減速」

労働者のバーゲニングパワーは健在である。自発的離職者は高水準、企業、特に中小企業の求人未充足率は高水準で高給を求めての労働者のJob hoppingが旺盛である。

 

[図表3]歴史的高水準の中小企業求人未充足率/[図表4]高止まりする自発的離職者数
[図表3]歴史的高水準の中小企業求人未充足率/[図表4]高止まりする自発的離職者数

 

こうした労働需給ひっ迫の下で賃金上昇率が減速、格差も縮小していることも、常識に反している。

 

1月のAHE(平均時給)は前月比0.3%と昨年1月の0.7%から半減している。コロナ禍の下での異常な労働需給ひっ迫が引き起こした、トラック運転手やウェイター、ウェイトレスなど接客業での人手不足は緩和に向かい、非熟練、低賃金分野の賃金上昇率は鈍り始めている。

 

また高給セクターの金融や情報部門での雇用の伸びが低いことも全体の賃金水準の伸びを引き下げている。

 

[図表5]ピークアウトした平均時給/[図表6]賃金上昇率格差(大卒以上―高卒未満)
[図表5]ピークアウトした平均時給/[図表6]賃金上昇率格差(大卒以上―高卒未満)

 

[図表7]学歴別労働力増減推移/[図表8]ピークアウトした雇用コストの伸び
[図表7]学歴別労働力増減推移/[図表8]ピークアウトした雇用コストの伸び

 

1月の週平均労働時間は34.7時間と、過去半年のレンジ(34.4~34.6時間)を上回った。雇用数の増加と労働時間の相乗効果により1月の生産活動は大きく増加していると示唆される。

 

他方で雇用コスト指数は低下している。生産性の伸びと賃金上昇率低下が進行する、まさに出来すぎの労働市場であるが、なぜこんなことが起きているのか。

 

“出来すぎの労働市場”の原因は「NAIRUの低下」か

明らかに労働市場が弾力的に動き、資源配分を采配しているといえよう。より具体的には、NAIRU(インフレを加速させない失業率)が低下している可能性である。

 

労働市場ではインターネットによって求人と求職のマッチングが瞬時にできるようになった。またよりフェアな労働賃金決定が可能になっている。スキルアップによるジョブシフトが給与増+生産性上昇を引き起こしているかもしれない。

 

労働者は容易にスキルにあった職を探し当てることができ、平均失業期間は2023年1月は9.1週と、コロナ前2019年の9.3週を下回っている。

 

NAIRUが低下しているとすれば、それは労働力供給余力を意味し、生産増加の一方で賃金が抑制される環境にあるのかもしれない。

 

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※本記事は、武者リサーチが2023年2月14日に公開したレポートを転載したものです。
※本書で言及されている意見、推定、見通しは、本書の日付時点における武者リサーチの判断に基づいたものです。本書中の情報は、武者リサーチにおいて信頼できると考える情報源に基づいて作成していますが、武者リサーチは本書中の情報・意見等の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。かかる情報・意見等に依拠したことにより生じる一切の損害について、武者リサーチは一切責任を負いません。本書中の分析・意見等は、その前提が変更された場合には、変更が必要となる性質を含んでいます。本書中の分析・意見等は、金融商品、クレジット、通貨レート、金利レート、その他市場・経済の動向について、表明・保証するものではありません。また、過去の業績が必ずしも将来の結果を示唆するものではありません。本書中の情報・意見等が、今後修正・変更されたとしても、武者リサーチは当該情報・意見等を改定する義務や、これを通知する義務を負うものではありません。貴社が本書中に記載された投資、財務、法律、税務、会計上の問題・リスク等を検討するに当っては、貴社において取引の内容を確実に理解するための措置を講じ、別途貴社自身の専門家・アドバイザー等にご相談されることを強くお勧めいたします。本書は、武者リサーチからの金融商品・証券等の引受又は購入の申込又は勧誘を構成するものではなく、公式又は非公式な取引条件の確認を行うものではありません。

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