(写真はイメージです/PIXTA)

現在、米国では労働市場・金融市場ともに常識では説明のつかない「好都合すぎる現象」が頻発していると、株式会社武者リサーチ代表の武者陵司氏はいいます。いま、米国市場でなにが起こっているのでしょうか。この「謎」の正体と今後の米国経済の展望を探っていきます。

今後の展望…景気後退とデフレリスクに警戒

仮にNAIRUが低下しているとすれば、米国労働市場に余剰(slack)が存在しており、FRBの性急な利上げは再びデフレのリスクを高めることになる。また恒常的資金余剰の下で長短金利の逆転を放置すれば、金融機関経営をいたずらに痛め、無用の金融ストレスの高まりを引き起こし、やはりデフレのリスクを強めることになる。

 

つまり、ここからのリスクはインフレではなく景気後退とデフレである、ということになるが、米国市場も米国当局もその点での暗黙のコンセンサスが形成されているようである。

 

パウエル議長発言は微妙に変化し、ディスインフレを指摘しつつ年内利下げの可能性を完全には排除しなかった。

 

雇用が「遅行指標」でない可能性も

すでに好循環が起き始めた可能性もある。製造業PMIが下落する一方で、サービス業PMIはリバウンドに転じている。特にサービス産業での新規受注が好調であり、それは好調な労働市場と消費によって支えられている。

 

であるならば、雇用は遅行指標ではなく先行指標ということになり、ここでも常識破りの事態となる。金融引き締めの下でもマンハッタンの家賃上昇が続いていると伝えられるが、それも労働市場の強さに支えられているとの報道がなされている。

 

[図表14]米ISM製造業・非製造業景況感指数と新規受注指数
[図表14]米ISM製造業・非製造業景況感指数と新規受注指数

 

以上の投資へのインプリケーションは、結局ゴールディロックス相場の再現の可能性が高まり、資産価格上昇も正当化される、というものだろう。政策当局の意志の見極めが大事である。デフレのリスクをより重視する、高圧経済論者であるイエレン財務長官の再任の意味は大きい。

 

米国経済がソフトランディングし、株式市場が強気市場入りをしているとすれば、それは米国資本主義経済がより深化(deepening)しているから、という仮説が成り立つ。

 

少なくともAIネット革命、イノベーションと米国の労働・資本市場の一段の効率化が米国経済の強靭性(resilience)を強めているといえそうである。

 

 

武者 陵司

株式会社武者リサーチ

代表

 

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※本記事は、武者リサーチが2023年2月14日に公開したレポートを転載したものです。
※本書で言及されている意見、推定、見通しは、本書の日付時点における武者リサーチの判断に基づいたものです。本書中の情報は、武者リサーチにおいて信頼できると考える情報源に基づいて作成していますが、武者リサーチは本書中の情報・意見等の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。かかる情報・意見等に依拠したことにより生じる一切の損害について、武者リサーチは一切責任を負いません。本書中の分析・意見等は、その前提が変更された場合には、変更が必要となる性質を含んでいます。本書中の分析・意見等は、金融商品、クレジット、通貨レート、金利レート、その他市場・経済の動向について、表明・保証するものではありません。また、過去の業績が必ずしも将来の結果を示唆するものではありません。本書中の情報・意見等が、今後修正・変更されたとしても、武者リサーチは当該情報・意見等を改定する義務や、これを通知する義務を負うものではありません。貴社が本書中に記載された投資、財務、法律、税務、会計上の問題・リスク等を検討するに当っては、貴社において取引の内容を確実に理解するための措置を講じ、別途貴社自身の専門家・アドバイザー等にご相談されることを強くお勧めいたします。本書は、武者リサーチからの金融商品・証券等の引受又は購入の申込又は勧誘を構成するものではなく、公式又は非公式な取引条件の確認を行うものではありません。

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