今後の展望…景気後退とデフレリスクに警戒
仮にNAIRUが低下しているとすれば、米国労働市場に余剰(slack)が存在しており、FRBの性急な利上げは再びデフレのリスクを高めることになる。また恒常的資金余剰の下で長短金利の逆転を放置すれば、金融機関経営をいたずらに痛め、無用の金融ストレスの高まりを引き起こし、やはりデフレのリスクを強めることになる。
つまり、ここからのリスクはインフレではなく景気後退とデフレである、ということになるが、米国市場も米国当局もその点での暗黙のコンセンサスが形成されているようである。
パウエル議長発言は微妙に変化し、ディスインフレを指摘しつつ年内利下げの可能性を完全には排除しなかった。
雇用が「遅行指標」でない可能性も
すでに好循環が起き始めた可能性もある。製造業PMIが下落する一方で、サービス業PMIはリバウンドに転じている。特にサービス産業での新規受注が好調であり、それは好調な労働市場と消費によって支えられている。
であるならば、雇用は遅行指標ではなく先行指標ということになり、ここでも常識破りの事態となる。金融引き締めの下でもマンハッタンの家賃上昇が続いていると伝えられるが、それも労働市場の強さに支えられているとの報道がなされている。
以上の投資へのインプリケーションは、結局ゴールディロックス相場の再現の可能性が高まり、資産価格上昇も正当化される、というものだろう。政策当局の意志の見極めが大事である。デフレのリスクをより重視する、高圧経済論者であるイエレン財務長官の再任の意味は大きい。
米国経済がソフトランディングし、株式市場が強気市場入りをしているとすれば、それは米国資本主義経済がより深化(deepening)しているから、という仮説が成り立つ。
少なくともAIネット革命、イノベーションと米国の労働・資本市場の一段の効率化が米国経済の強靭性(resilience)を強めているといえそうである。
武者 陵司
株式会社武者リサーチ
代表
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