(写真はイメージです/PIXTA)

現在、米国では労働市場・金融市場ともに常識では説明のつかない「好都合すぎる現象」が頻発していると、株式会社武者リサーチ代表の武者陵司氏はいいます。いま、米国市場でなにが起こっているのでしょうか。この「謎」の正体と今後の米国経済の展望を探っていきます。

歴史的な利上げのなか、「資金余剰」の金融市場

金融市場での謎はグローバルに潤沢な投資資金、流動性の存在である。歴史的利上げにもかかわらず潤沢な投資資金が新興国株式や米国の低格付けクレジット市場に流れ、リスクプレミアムは低下し始めている。

 

なにより4.5%まで短期金利が引き上げられたにもかかわらず、米国10年債利回りは3.5~3.7%前後まで低下している。これはCPIや名目経済成長率の半分であり、依然として緩和的水準にあるといえる。金融引き締めの効果を金余りがしり抜けにさせているともいえるのだ。

 

シカゴ連銀が計算している全米金融環境指数(National Financial Condition Index) は昨年4Q以降、大きく改善されてきている。まさにグリーンスパン元FRB議長が「謎(conundrum)」といった事態が再現されているかのようである。

 

[図表9]米国長期金利推移(名目GDPの半分以下水準でピークアウト)
[図表9]米国長期金利推移(名目GDPの半分以下水準でピークアウト)

 

[図表10]米国BBB社債リスクプレミアム/[図表11]シカゴ連銀全米金融環境指数
[図表10]米国BBB社債リスクプレミアム/[図表11]シカゴ連銀全米金融環境指数

 

この長期金利の低下を先行きの景気不安の予兆とする見方もあるが、よりリスクの高い新興国株式やジャンク債の値上がり、さらには米国銀行貸し出し増加や、世界景気との連動性が高い銅市況の上昇などと辻褄が合わない。

 

長期金利低下の原因は「景気悪化の前兆」ではない

1980年以降長期金利の低下が景気悪化の前兆ではなかったように、いまの長期金利の低下も別の要因によるものである可能性が考えられる。

 

それはなにかといえば、企業部門の生み出す価値が企業部門が必要とする投資より大きく、恒常的資金余剰が起こっていると考えられるのではないか。

 

その背景には資本生産性の恒常的上昇がある。設備、機械、知的資産などの価格が大きく低下し、設備などの再取得価格が低下し、必要な投資額が減少するということが起きている。

 

またGAFAMではリストラが進行しているが、そこではAI、ロボットによる労働力代替が起きており、大きな生産性上昇ゲインが、企業部門の金余りを引き起こしている可能性がある。

 

米国企業の大幅なフリーキャッシュフローの存在は、企業部門に潤沢な資金余剰が存在していることを示している。企業はその余剰資金の大半を自社株買いとして市場に還元している。

 

[図表12]米国企業のフリーキャッシュフロー推移/[図表13]米国主体別累積株式投資額(2009年以降)
[図表12]米国企業のフリーキャッシュフロー推移/[図表13]米国主体別累積株式投資額(2009年以降)

 

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※本記事は、武者リサーチが2023年2月14日に公開したレポートを転載したものです。
※本書で言及されている意見、推定、見通しは、本書の日付時点における武者リサーチの判断に基づいたものです。本書中の情報は、武者リサーチにおいて信頼できると考える情報源に基づいて作成していますが、武者リサーチは本書中の情報・意見等の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。かかる情報・意見等に依拠したことにより生じる一切の損害について、武者リサーチは一切責任を負いません。本書中の分析・意見等は、その前提が変更された場合には、変更が必要となる性質を含んでいます。本書中の分析・意見等は、金融商品、クレジット、通貨レート、金利レート、その他市場・経済の動向について、表明・保証するものではありません。また、過去の業績が必ずしも将来の結果を示唆するものではありません。本書中の情報・意見等が、今後修正・変更されたとしても、武者リサーチは当該情報・意見等を改定する義務や、これを通知する義務を負うものではありません。貴社が本書中に記載された投資、財務、法律、税務、会計上の問題・リスク等を検討するに当っては、貴社において取引の内容を確実に理解するための措置を講じ、別途貴社自身の専門家・アドバイザー等にご相談されることを強くお勧めいたします。本書は、武者リサーチからの金融商品・証券等の引受又は購入の申込又は勧誘を構成するものではなく、公式又は非公式な取引条件の確認を行うものではありません。

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