(写真はイメージです/PIXTA)

昨今、いままでにないほど、米中の溝は深まっています。新しい冷戦下ではどのような世界が築かれていくのでしょうか。ニッセイ基礎研究所の三尾幸吉郎氏によるレポートです。

3―終わり無き「正義vs正義」の論争

バイデン米政権は2021年12月、日本や欧州などの首脳を招いて民主主義サミットを開催し、中露との関係を「民主主義」と「専制主義」の闘いと位置づけ、民主主義国の連携強化を呼びかけた。民主主義を「正義」、専制主義を「不義」としたの二項対立に持ち込み、欧米型民主主義への信認を高めようとしたのだろう。

 

これに対し中国は異を唱えた。民主主義サミットが開催された21年12月、中国の民主主義と題する白書を発表し、「民主主義は各国人民の権利であり、少数の国の専売特許ではない」として、米国が欧米型民主主義を他国に押し付けるのは内政干渉であり、各国がどのような民主主義を選ぶかは自由であるべきだと主張、「自由の国」を自負する米国を皮肉った。

 

また人民民主独裁を憲法で定める中国にとって専制主義は「不義」ではなく「正義」である。特に中国の特色ある社会主義を完成させる途上(社会主義初級段階)では必要不可欠なプロセスと考えられているため、共産党政権が崩壊しない限り変わることのないものだ*3

 

したがって米国が二項対立に議論を持ち込んでしまうと、中国が外交的に譲歩しようと思ってもその余地が全く残されてないため、「正義vs正義」の挑戦状を叩きつけられたようなもので、共産党政権の崩壊を望んでいるようにしか見えない*4。こうしたことを踏まえると、米国が「民主主義vs専制主義」の二項対立という考え方を取り下げて中国の特色ある社会主義の存在意義を認めるか、あるいは中国で共産党政権が崩壊しない限り、米中対立は半永久的に続くだろう。

 

*3:「共同富裕」が実現すれば、もはや社会主義初級段階ではなくなり「人民民主独裁」も無用の長物となるかも知れない

*4:シンガポールのリー・シェンロン首相は「民主主義対権威主義の図式にはめ込むのは、終わりのない善悪の議論に足を突っ込む」と警戒感を示した

4―米中新冷戦下の世界

それでは米中新冷戦下の世界情勢はどんな勢力図になるのだろうか。想像の域を出ないが、欧州連合(EU)やファイブアイズの国々、それに日本は欧米型民主主義という価値観を共有しているので、米国を中心とする陣営に与する可能性が高いだろう。但し、欧州諸国の中には、独自の外交を展開してきたフランスや、中国との関係が深いハンガリーなどもあるので、一枚岩ではないかも知れない。

 

一方、中国を中心とする陣営に与する可能性がある国としては、ロシア、北朝鮮、イランなどが挙げられる。それに伴って上海協力機構(SCO)加盟国やBRICSの一部の国が加わる可能性もある。但し、これらの国々は反パクス・アメリカーナで一致するだけで、中国の特色ある社会主義を信奉している訳ではないため、中国を中心とする陣営というよりも「反米同盟」に近いのかも知れない。

 

それ以外の国々は政治思想のいかんに関わらず中立にとどまる国が多いだろう。中国に近づきすぎれば米国から非友好国と見做されて、米国を中心とする陣営から排除される恐れがある。米国は信頼できる友好国での立地を重視する「フレンド・ショアリング」のサプライチェーンを構築しようとしているからだ。

 

一方、米国に近づきすぎれば中国から非友好国と見做されて、報復措置を受ける恐れがある(いわゆる「経済的威圧」)。その点、中立であれば、手厚い支援はどちらの陣営からも期待できないが、どちらの陣営も敵に回さずに済み、米中両国もこれらの途上国を敵に回したくないため、これまでどおりに両陣営との貿易・投資関係を継続できるからだ。

 

さらにそれぞれ自国の国益に照らして是々非々の判断ができるため、米中両国の意見が激しく対立する国際会議では、キャスティング・ボートを握ることもできる。実際、2022年11月に開催されたG20サミットでは、ウクライナに侵攻したロシアと、それを非難する西洋諸国が対立し首脳宣言採択が危うくなったが、ロシアとも西洋諸国とも交流のあったインドは双方の歩み寄りを促し、存在感を高めることとなった。米中新冷戦下の世界では「第三世界(中立国)」の国々を巡る多数派工作が盛んになりそうだ。

 

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※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2023年2月7日に公開したレポートを転載したものです。

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