1―物流業界が直面する2024年問題とは
2019年4月に施行された働き方改革関連法では、時間外労働の上限規制が設けられている。これに違反した事業者は、6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金が課せられることになる。大企業では2019年4月から、中小企業では2020年4月から施行されている。
ただ、建設事業、自動車運転業務、医師については、上限規制の適用が2024年3月末まで5年間猶予されてきた。それがいよいよ来年4月から施行される(図表1)。とりわけ、長時間労働で若手を確保できず、慢性的に人手不足が進み、高齢化が進展している物流業界の動向は気になるところだ。
トラック運送などの事業者数は、EC(電子商取引)市場の拡大などに伴い、30年間で2倍の6万事業者まで増加して来た(図表2)。ただ、同期間における物流量は、宅配だけで10億個から60億個と6倍近く増加している。荷物の増加に人手の確保が追い付かない状態であり、マンパワーが足りていないことは明らかだろう。トラック協会のアンケート調査*1によると、年間960時間超となるドライバーのいる事業者は全体で3割程度(図表3)。これをそのまま輸送能力に置き換えれば、3割程度のマンパワーの不足となり、物流量の減少になると粗く見積もることもできるだろう。
*1:公益社団法人・全日本トラック協会「第4回 働き方改革モニタリング調査について」(2022年3月)
2―物流業界の生産性向上を、如何に実現していくか
国は最近、高速道路の深夜割引の仕組みを見直すことを決めた。現行の割引制度は、深夜0時に高速道路の料金所を通るかどうかで料金が大きく変わるため、割引を受けるために料金所等の手前で、待機するトラックが増えるという問題が生じていた。新たな仕組みの導入は、ドライバーの負担軽減につながると期待されるが、物流網の安定化には力不足だろう。
人手不足への対応としては、無人走行や荷下ろしのロボット化など、技術の進展にも期待が掛かる。ただ、こちらも実用化までには時間が必要であり、即効性のある対策とはなり難い。しばらくは、配達経路の最適化や置き配の拡大など、消費者の協力を得ながら効率化していくことが必要になる。
運輸業界では今年、供給制約やコスト増から賃上げなどの処遇改善が進むはずだ。ただ、時間制約やコスト制約から生産性が向上しなければ、配送量は減少して行くと思われる。物流コストの上昇は、すなわち生活コストの上昇につながる。混乱は免れまい。
デジタル経済圏が大きくなることで、我々の「ポチる経済」は便利になったが、その恩恵を受けられるのも物流がしっかりしているからだ。しかし現状、この分野は長時間労働が前提となっている部分もあり、物流を維持していくには生産性の向上が不可欠となる(図表4)。
物流業界の2024年問題は、社会全体の制約要因となりうるリスクを有する課題だと言える。