(※写真はイメージです/PIXTA)

職場の上司部下の関係が壊れた状態では、会話も対話も成立しません。部下は「あなたには言われたくない」と感じ、聞く耳を持ちません。経営者たちが抱える「組織変革」の悩みを組織改革コンサルタントの森田満昭氏が解説します。

社員の育成なしに会社は成長なし

■経営において社員育成は売上向上より重要であると認識する

 

現場の社員に不満があると思考の質が下がります。表面上は真面目に取り組むふりをしながら、実際には気持ちが入っていないという社員はよくいます。そのような場合は当然、ミスやクレームが続発します。

 

今の行動が将来に与える影響を考えて行動できていないためです。1年後にその仕事がどうなるかが見えず、今を無事に過ごせればいい、手を抜いてもこの瞬間は楽できるからいいという、非常に近視眼的なものの見方をしているのです。

 

例えば工場の製造ラインに携わる人が、今の自分の仕事しか見えていないことはよくあります。作っているのは1000円の部品でも、それが100万円の機械の部品であれば製品になって顧客のもとで問題が発生すると、100万円の損害になります。そしてそれが会社の評判を落とし、社員全員の給料が下がることにもなりかねません。

 

しかし思考の質が下がっていると、自分の行動が影響を与える範囲を認知できないのです。「そんなことにも気がつかなかったのか」と言ったところで、その人には見えていません。

 

必要なことは、今の自分の思考・行動が今後の人生にどんな影響を与えるかを考えられるようになることです。

 

昭和の時代なら、仲間内や上司となんの根拠もない夢を語り合うことが、いい意味でモチベーションになっていました。しかし今はそういう機会がほとんどなく、一般社員が視野を広げる機会も極端に減っています。

 

特に今の若者は、仕事と人生を分けて考える人が多いように見受けられます。「20万円の給料しかもらっていないのに、余計なことまでやったらコスパが悪い」「頑張ることで会社にメリットがあっても、俺の給料が上がるわけではない。

 

だから真剣に取り組んでも意味がない」など、ワーク・ライフ・バランスを勘違いしている節もあります。

 

人生(ライフ)を支えるのが仕事(ワーク)です。仕事を通じて人生の満足度が高まるのであって、人生と仕事は天秤にかけるものではありません。

 

経営者は常にいい人材を求めていますから、ただひたむきに仕事を頑張る社員を欲しがります。ですので今はあまり成果が出ていない人でも、その会社で頑張り続けていれば誰かが引き上げてくれるはずです。「評価されて人生を広げていくことで、会社のためだけではなく、家族も安定して支えていくことができるんだ」と認知の幅を広げられたら、ほかの誰かが手を抜いていても自分の仕事への態度は揺らぎません。

 

「おまえは真面目過ぎるから残業が回ってくるんだよ」と揶揄されても、「僕がプライドをもって生きるために、この仕事にきちんと取り組むんだ」という考え方が維持できます。そのような社員は、コンプライアンス違反などはしませんが、前向きであるがゆえに職場で浮いてしまったら退職してもっといい会社に移ります。そういったひたむきな社員が辞めていくことに、経営者は危機感をもつ必要があります。

 

ある有名予備校は、偏差値が低い人でも東大に合格できることを売りにしています。工程を細かく刻み、そのステップを一段ずつ上がり続ければ実力がついてくるという方式を実践しているのです。例えば工程を120段に刻んだら、最初の一歩は1点上げることかもしれません。

 

しかし予備校としては、この1段目が100点に相当するのだといいます。一段で1点を120回繰り返していけば、今はどれほど偏差値が低くても東大に行けるという理屈です。

 

経営者も「俺が思う理想は100点だ。だからまずは取りあえず50点を取れ」というのではなく、「今君はここにいて、僕の理想はここだ。だから君は、まず次のこのステージに行ってほしい。それが今の君にとっては100点だ」と社員に伝えるとよいです。そしてそれが達成されれば社員の努力を褒めて「次はここへ行くことが100点だ」とサジェスチョンし、また達成されれば、また社員を褒め……ということを繰り返すのです。それが育成マインドの基本です。

 

たたき上げの経営者からすれば「最近のやつらはなんて生ぬるいんだ」と思うかもしれませんが、経営者も勉強して新時代のマネジメントに対する認識の幅を広げるべきです。単に知識量を増やすのではなく新しい知識に基づいて思考することによって、認識の仕方が変化します。これが進化するということです。

 

知識を増やせば考え方や解釈が変化するという点では、経営者も社員も同じです。変化した自分が物事を見ると受け止め方が変わり、思考の幅がより広がってさらに考え方が変わるという好循環が起きます。

 

残念なことに、このような社員育成をしている会社はほとんどありません。しかし、社員の育成なしに会社は成長しません。社員が10人以上の組織になると、現場を回すのは社員です。その社員のレベルが高まらなければ、いくら売上アップだと檄を飛ばしても実現しないでしょう。

 

忙しくて社員を育成する暇がないと言っているのは「仕事が忙しくて呼吸をする暇もない」と言っているように聞こえます。人間は呼吸をしなければ死んでしまいますが、会社にとって社員の育成はそれと同じくらい不可欠なものなのです。

 

森田 満昭

株式会社ミライズ創研 代表取締役

 

 

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※本連載は、森田満昭氏の著書『社員が自ら考え、動く自走型組織の作り方』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

社員が自ら考え、動く自走型組織の作り方

社員が自ら考え、動く自走型組織の作り方

森田 満昭

幻冬舎メディアコンサルティング

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