【医師が解説】「ダイエット薬で痩せる」のはアリ?肥満治療に使われる「漢方薬」の成分・効能とは

【医師が解説】「ダイエット薬で痩せる」のはアリ?肥満治療に使われる「漢方薬」の成分・効能とは
(※写真はイメージです/PIXTA)

近年注目が集まる「漢方」について、漢方クリニック院長の経歴を持つ総合内科専門医・團茂樹氏(宇部内科小児科医院 院長)が解説します。本稿では、漢方薬による肥満治療について見ていきましょう。

近年流行している「痩せる薬」の問題点

まず、漢方薬だけで肥満を治すなどということは所詮無理であるということを認識して下さい。それと2〜3ヵ月程度のダイエットは、2〜3ヵ月程度の禁煙や禁酒などと同じようにあまり意味を持たないことは言うまでもありません。

 

2〜3ヵ月の短期間ダイエットに限れば、いくつかの西洋薬を宣伝する向きがありますが、それらの薬だけによる長期間の治療効果に関しては私は把握していません。以下にいくつかの例を挙げます。私は使うつもりはないので商品名はココでは書きませんが、少しコメントしてみます。

 

一つは、食事からの脂肪吸収をカットする西洋薬が取り沙汰されています。しかしその薬剤の長期間使用に関してはビタミンEに代表される油性のビタミン吸収抑制なども考えられ、個人的には皮膚疾患や健康被害の併発を危惧しています。

 

さらに糖尿病に使われる薬剤のいくつかにもダイエット効果が宣伝されていますが、保険外である点と、あくまで糖尿病治療薬としてのものなので、長期服用には専門家の知識が必要となるはずです。

「ダイエットによく使われる漢方薬」とその効能

ここからは、ダイエットによく使われる漢方薬についてそれらの特徴を説明していきます。

 

【①防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)】

世間ではナイシトールなどとして売られています。日本では、美食や過食による栄養過多に加え、運動不足などによる脂肪太りにすすめられています。

 

しかし漢方薬の本場・中国では、この防風通聖散は別の目的で使われています。それは体内に炎症や代謝亢進状態が存在して熱の産生が高まっている際や、感染あるいは寒冷の環境にさらされたときに使われるようです。そのときの病態像としては、体表からの熱放散が妨げられ、うつ熱状態が引き起こされていると解釈されます。

 

症状としては、悪寒、頭痛、無汗、咳などの症状に、目の充血、咽頭痛、イライラや腹部膨満感、便秘、尿が濃いなどの症状が伴った状態です。

 

含まれている生薬は、温め発汗させる生姜・麻黄(まおう)・荊芥(けいがい)、痒み痛み止めの防風、血を補い潤す川芎(せんきゅう)・芍薬(しゃくやく)・当帰(とうき)、排便を促す大黄(だいおう)・芒硝(ぼうしょう)、熱を冷ますサンシシ・黄芩(おうごん)・薄荷(はっか)、炎症を抑える連翹(れんぎょう)・桔梗(ききょう)、利水作用を期待する白朮(びゃくじゅつ)、緩和作用の甘草(かんぞう)から構成されています。

 

日本でなぜ肥満に使われるかはよくわかりませんが、恐らく我が国の賢人たちの経験則からくる用法と想定しています。

 

私の処方経験でいうと便秘が解消するという意見がやや多く、肥満に関しての効果については正直わかりません。ただ、効いていると実感してリピーターとして来院された場合には、希望に合わせて処方しているというのが実情です。

 

薬局で自腹で購入していた方が、保険で処方し始めると、むしろ効き目がなくなったという方が何人かいます。「保険外でお金をかけて試しているんだから、効くはずだ」などの何らかのプラシーボ効果が働いているのか、長期間では効力が低下するのかまでは判断できないでいます。

 

【②防已黄耆湯(ぼういおうぎとう)】

色白で筋肉が柔らかく水太りの方に使うといいと言われています。下肢の浮腫や膝痛にも用いられます。汗をかきやすく、胃腸もあまり強くなく、疲れやすい人向きです。

 

水分の調整剤としての防已・黄耆・蒼朮(そうじゅつ)があり、胃腸調整作用の甘草・大棗(たいそう)・生姜で構成されています。

 

【③大柴胡湯(だいさいことう)】

活動的で食欲旺盛で筋肉質な肥満者に適するようです。たとえば会社勤めが始まってからのイライラやのぼせなどの見られる人では、ストレス喰いも要因の一つになりえます。

 

使われている生薬としては、イライラを抑えるための柴胡、黄芩、枳実(きじつ)、気*を巡らす半夏(はんげ)・生姜、排便を促す大黄、痛み止めとしての芍薬、胃腸を守る大棗から構成されています。

 

(*気…東洋医学では患者さんの生体情報を「『気、血、水』の異常」という概念で捉え、それらを統合して、その時点における証として治療していきます。「気」には、血行や体内の水の循環を良くしたり、栄養を全身に送ったりする働きがあると考えらえています。)

 

ストレス関連の肥満には、類似治療薬として柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)や四逆散(しぎゃくさん)なども試す価値はあるかもしれません。

 

【④桃核承気湯(とうかくじょうきとう)】

瘀血*(おけつ)に関連する肥満に使われます(*瘀血…東洋医学において、血液の流れが滞った状態のことをさす)。更年期になってから太り出した女性にすすめるという意見もあるようです。便秘がちで、肩こりや足の冷え、肌荒れすることが多い人にもオススメです。

 

生薬としては、瘀血に対する桃仁(とうにん)、のぼせをとる桂皮(けいひ)、便秘に対する大黄・芒硝、緩和剤としての甘草から構成されます。

 

瘀血に対しては桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)も試す価値はあります。さらに、これに薏苡仁(ヨクイニン)を追加した桂枝茯苓丸料加薏苡仁(けいしぶくりょうがんりょうかよくいにん)もあります。薏苡仁についていうと、利水作用と、おそらく脂肪を溶かす作用を期待する報告もあるようです。

効果的なダイエットを行うには

以前の記事で、漢方薬治療においては患者さんの状態(証)を重視して治療していることを説明しました。西洋薬は一般的に構造式が単一成分であるため、病気(肥満を“病気”と言うわけではありませんが)に特化したものと考えられます。一方、漢方は種々の生薬の組み合わせでできています。そのため自由な発想で薬を選ぶことができます。上述したように、瘀血の薬やストレスの薬を肥満に利用する試みもアリなのです。

 

とはいえ、ダイエットに関しては自分に合った食事の仕方、運動の仕方を工夫する必要があることは言うまでもありません。それと、2〜3ヵ月の短期のダイエット方法ではすぐリバウンドしてしまいます。

 

本稿は漢方中心の話ですので代表的な漢方薬を挙げましたが、長期戦のダイエットを考えるのであれば、私ならどれか一つの漢方薬に絞るのではなく、患者さんの食生活や精神状態や種々の環境の変化に合わせて、漢方薬の変更や組み合わせをするよう工夫をするといいと思います。

 

季節の変化や対人関係の変化もあるでしょう。生理のある女性なら生理周期によるドカ食いやPMS(月経前症候群)などの影響もあると思います。PMS関連だと加味逍遙散(かみしょうようさん)、抑肝散(よくかんさん)、温清飲(うんせいいん)などを利用するなど、場面場面で変化する体調に合わせて治療を行うことが本来の漢方治療の姿です。

 

大事なことは、主治医や薬剤師の方たちと逐次相談しながら、焦らずに行うことです。ダイエットには王道はありませんが、方法論は無限にあると思います。

 

 

團 茂樹(だん しげき)

宇部内科小児科医院 院長

総合内科専門医

 

日本大学医学部附属病院で血液のガン治療に従事した後、自治医科大学へ国内留学、基礎研究分野の経験を経て大学病院や地方病院に勤務。その後、遺伝子研究の本場・カナダオンタリオ州立ガンセンターで遺伝子生物学に関する基礎研究に従事。帰国後、那須中央病院の内科部長を経て、宇部内科小児科医院副院長に就任。その後3年間、千代田漢方クリニック院長を兼任。

以来16年余り漢方治療を導入。2010年から現職。2015年に総合内科専門医を取得。総合臨床医として様々な症例に携わるとともに、臨床で培った経験や医療情報の中から選りすぐったアドバイスを行うダイエット法には定評がある。

著書に『糖尿病は炭水化物コントロールでよくなる』(2022年6月刊行、合同フォレスト)がある。

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