アンチエイジングでは「生活習慣病の改善」が大前提
アンチエイジングとは、極端な言い方すると「筋力アップをすること」です。
アンチエイジングを言う前に、生活習慣病としての高血圧、脂質異常、糖尿病などの治療や禁煙、アルコール過飲などに気をつけて、脳や肺や心臓などで倒れない努力をするのは当然です。
私見としてですが、生活習慣病の中の高血圧とコレステロール治療に関しては投薬治療が有効です。しかし糖尿病に関しては、魅力的な薬剤が次々開発されてはいますが、適正糖質を守ることが大前提で、そこが守れないときの血糖変動はいかなる薬剤でもカバーすることはできない印象があります。
なお、認知症に関しては現在特効薬が見当たらないので、ここでは言及しません。
<治療薬がよく効く領域>
●高血圧
●高コレステロール血症
<治療薬より個人の節制が欠かせない領域>
●糖尿病
●慢性疼痛(手術適応は除外)
慢性腎臓病(CKD)〜透析のリスク回避が大事
昨今ではCKDが取り上げられていますが、その背景には高血圧、糖尿病、脂質異常、慢性疼痛に対する消炎鎮痛剤の乱用などが複合因子として存在します。CKDは悪化してしまうと透析のリスクがあります。
中でも糖尿病の治療と慢性疼痛の管理は大きな位置を占めています。
そしてこれらの治療には、患者さんの協力が欠かせません。なぜならこれらの治療に関しては、薬剤治療が苦手な分野だからです。
現在、これらの治療には次のことを推奨します。
(1)糖尿病治療
●タンパク質の摂取を増やす⇒インスリン追加分泌が増える⇒糖尿病改善
●適度なレジスタンス運動*⇒筋肉でのブドウ糖取り込みが増える⇒糖尿病改善
(ブドウ糖をエネルギー源とする運動。いわゆる筋トレ)
ただしCKDが進行してしまっている段階(ステージ4以上)では、糖尿病の有無に関わらずタンパク質は制限されます。
※註1:ご飯やパン、麺類などの炭水化物を単独で摂るより、他のおかず(中でも特にタンパク質)をしっかり併用する方が、たとえカロリーが増えても血糖値はより低下する傾向があるとことが分かっています。
※註2:食後すぐの適度な強度のレジスタンス運動は食後過血糖を改善します。
(2)慢性疼痛に関して 〜主に整形外科領域
年をとればとるほど、背は縮んで、筋肉も衰えていくのは自然の摂理です。
しかし本人の危機管理意識がないと、
●タンパク質の摂取が減る⇒筋力低下⇒慢性疼痛
●レジスタンス運動が減る⇒筋力低下⇒慢性疼痛
へ繋がります。
<慢性疼痛に対する治療>
i)漫然とした対症療法としての消炎鎮痛剤投与は、経口薬、湿布材に限らず胃腸障害は言うに及ばず、特に高齢者においては血圧の悪化、浮腫、ひいては腎機能への悪影響を及ぼす危険が潜んでいます。
ii)筋力アップの工夫が根本治療となる場合が少なくないと感じています。
iii)手術療法が必要な場合には整形外科の出番です。
筋力アップするためには、慢性疼痛がある人はそれを克服する必要があります。
慢性疼痛がある方におすすめの漢方薬
今回は、各約束処方を構成する生薬の説明は煩雑さを避けるために省略します。
①桂枝加朮附湯(けいしかじゅつぶとう)…冷えと湿気による疼痛に。やや温め効果もあります。
②薏苡仁湯(よくいにんとう)…汗かきでない人の固定した箇所の浮腫や痛みに。やや温め効果もあります。
③麻杏薏甘湯(まきょうよくかんとう)…汗かきでない人の関節の浮腫をとる。薏苡仁による利水作用はあるも、芍薬(しゃくやく)が入ってないので鎮痛効果はやや少ない。
④防已黄耆湯(ぼういおうぎとう)…やや水太り体質で疲れやすいタイプの関節痛に。
⑤越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)…浮腫が強く、尿の出が悪くなって、関節痛をともなうときに。冷やす作用の強い石膏(せっこう)が入っているので、冷え性の方は避けます。
⑥桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)…瘀血(おけつ)*に起因する諸疾患に有効です。他の処方薬と組み合わせて、浮腫や冷え性に起因する筋肉や神経痛に効果あり(*瘀血…東洋医学において、血液の流れが滞った状態のことをさす)。
⑦疎経活血湯(そけいかっけつとう)…四肢や体幹の痺れ、移動する痛みに。
⑧大防風湯(だいぼうふうとう)…皮膚が乾燥し、栄養状態の悪い関節痛に。生薬としては、温め痛みをとる附子(ぶす)、乾姜(かんきょう)、元気を出す黄耆、血を補いめぐらせる地黄(じおう)、当帰(とうき)、芍薬が入る。
⑨八味地黄丸(はちみじおうがん)…腰や膝がだるく、力がないときに有効。冷えがある人に。冷えのない人には六味丸(ろくみがん)で。
⑩苓姜朮甘湯(りょうきょうじゅつかんとう)…腰から下が冷えて痛み、やや浮腫みやすいときに。
⑪当帰建中湯(とうきけんちゅうとう)…貧血傾向のある腰痛や月経痛や腹痛に。
この他にも、患者さんの状況のよって何通りでも処方薬の組み合わせができます。
「レジスタンス運動」の習慣化も不可欠
筋力アップを目的にするレジスタンス運動は欠かせません。ここからは、レジスタンス運動(ブドウ糖を消費する運動)を習慣化するための提案を紹介します。
まず食後すぐ2〜5分程度のレジスタンス運動、またはトイレに立ったときに合わせて2〜5分程度のレジスタンス運動を習慣化することです。
レジスタンス運動の内容は、スクワット、壁押し、腕立て伏せ、腹筋運動など何でも種類は問いません。
これらのレジスタンス運動は、7〜8割の強度の運動を適度に息継ぎしながら行うことです。また、これらは時間と場所は選ばないのでマストです。
有酸素運動は脂肪酸を消費する運動が主であり、時間と場所を選びます。時間に余裕がある方は、レジスタンス運動に追加して行なってください。心臓や呼吸器系を刺激するには良い運動です。
細かなことはさておき、レジスタンス運動とタンパク質摂取がアンチエイジングの基本と考えます。
團 茂樹(だん しげき)
宇部内科小児科医院 院長
総合内科専門医
日本大学医学部附属病院で血液のガン治療に従事した後、自治医科大学へ国内留学、基礎研究分野の経験を経て大学病院や地方病院に勤務。その後、遺伝子研究の本場・カナダオンタリオ州立ガンセンターで遺伝子生物学に関する基礎研究に従事。帰国後、那須中央病院の内科部長を経て、宇部内科小児科医院副院長に就任。その後3年間、千代田漢方クリニック院長を兼任。
以来16年余り漢方治療を導入。2010年から現職。2015年に総合内科専門医を取得。総合臨床医として様々な症例に携わるとともに、臨床で培った経験や医療情報の中から選りすぐったアドバイスを行うダイエット法には定評がある。
著書に『糖尿病は炭水化物コントロールでよくなる』(2022年6月刊行、合同フォレスト)がある。