胸が痛いのに、検査しても「異常なし」…日本人特有の「原因不明の胸痛」の正体【医師が解説】

胸が痛いのに、検査しても「異常なし」…日本人特有の「原因不明の胸痛」の正体【医師が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

原因がはっきりしない胸痛に悩まされている方はいませんか? 最近、これまでの検査法では原因がわからなかった胸痛が、診断できるようになってきました。総合内科専門医・團茂樹氏(宇部内科小児科医院 院長)が、微小血管狭心症を含む「INOCA」について解説します。

従来の検査法では見つけられなかった「胸痛の原因」

「微小血管狭心症(びしょうけっかんきょうしんしょう)」という病気を聞いたことはありますか? 昔から、胸が痛くなるのにいろいろ調べても原因がはっきりとわからない病気でした。運動すると胸が痛くなって、心電図もときには変化がみられ、中年の女性に多いという特徴があります。

 

通常の“狭心症”であれば、太い冠動脈のどこかに詰まりがあります。その部位や程度はCT検査や心臓カテーテル検査で目視され、診断につなげられていました。しかしながら、「微小血管狭心症」はその名のとおり毛細血管レベルで詰まっている“狭心症”のため、今までの検査法では確定診断することはできませんでした。

胸痛の原因となる「見えない血管」を診断する

ここからは、INOCA(後述)診断に積極的にとり組まれている東京蒲田病院(小山豊院長)からの1症例を提示します。

 

つい先日、10年来の胸痛で悩まされている患者さんがご来院されました。昔はジムで運動していたほどの活発な方です。しかし「運動するとどうも胸が苦しくなるようになって、運動ができなくなってきた。駅の階段を上るのにも苦しさを伴うようになってきて、ついにはその頻度も増して日常生活に支障をきたすようになってきた」、ということでした。

 

さて、いくつかの大学病院や大病院を受診し心臓の検査を受けましたが、何も異常は見つかりませんでした。最後には心臓カテーテル検査まで受けたものの、冠動脈の詰まりは見つからず「心臓病ではない」と診断されていました。

 

お話をうかがうと、「労作性狭心症(運動で症状が誘発されやすい狭心症)」に非常によく似た症状であることは間違いありません。そこで「微小血管狭心症」の可能性が考えられるためご本人と相談し確定診断のための検査を行うことにしました。その検査とは心臓カテーテル検査です。

 

以前調べても異常がなかったのにまたやるのか?と思われるかもしれませんが、今回のカテーテル検査では特殊な方法を使いました。それが「微小血管狭心症」の確定診断をする微細なカテーテルを併用した診断法です。その微細なカテーテルを冠動脈に挿入して血管抵抗に関する数値を計測すると、なんと明らかな異常値が検出され、その結果から「微小血管狭心症」の診断を得ることができました。その数値をもとに新たなお薬を開始して、あれほど悩まされていた胸の症状は現在まったくなくなり、今は快適な日常生活を送られています。

日本人特有の「特殊な狭心症」、INOCA

最近、特殊な狭心症のグループをINOCAと呼ぶようになりました。INOCAとはIschemic Non-obstructive Coronary Artery disease(虚血性非閉塞性冠動脈疾患)の略で、前述したように目に見えるレベルの血管には有意な詰まりがない心臓血管病です。

 

日本人に特有のINOCAには a)冠攣縮性(かんれんしゅくせい)狭心症があり、これは平時にはまったく正常に見えている冠血管が何らかのきっかけで痙攣を起こして詰まってしまう病気です。冠攣縮性狭心症に関しては、昔から心臓カテーテル検査で血管の痙攣を誘発することで診断されていました。一方で、b)微小血管狭心症は昔から病気としては認識されていましたが、客観的に診断する方法はありませんでした。

 

現在、INOCA=微小血管狭心症+冠攣縮性狭心症と考えられています。

 

そして最近になって微小血管狭心症の診断のための新たな手法が導入され、今まで確定診断に至ることがなかった胸痛が診断される機会が増えてきています。通常の心臓カテーテル検査で冠動脈に明らかな詰まりが見られなかった場合には、冠動脈内に特殊な微細なカテーテルを挿入して、血管抵抗数値を計測することで診断します。その結果「微小血管狭心症」の確定診断が得られ、それぞれの患者さんに合った最適な治療を行うことで症状を緩和し、患者さんのQOLの改善につなげることができるようになりました。

 

小山院長はこの症例にエパデールを追加投与し、従来の脂質管理をより厳格にされているようです。

 

INOCAのひとつである微小血管狭心症は、典型的な数分の胸部圧迫感を生じる冠攣縮性狭心症とは違い、呼吸困難感、吐き気、胃痛などの消化器症状、背部痛、顎や多彩な不定愁訴が多く、それも数時間続くこともあるようです。冠攣縮性狭心症には亜硝酸剤がよく効きますが、微小血管狭心症ではそれよりも、むしろカルシウム拮抗薬の方が効くようだと言う専門家もいます。現実的には亜硝酸剤の舌下が効かないときには狭心症と診断されず、他科での誤った診断がつけられることもあります。

微小血管狭心症に対する治療

現在のところ確立した治療は模索中の段階です。なぜなら上述したようにこの疾患をしっかり診断できる施設が少なく、これからのデータの積み重ねが必要だからです。

 

最後に、その中でも有望視されている治療薬についてみていきましょう。

 

西洋薬では、以下が有望視されています。

 

①スタチン剤…虚血性冠動脈疾患に対しては、閉塞の有無に拘らず、悪玉コレステロール値をしっかり低下させることが基本であることに変わりありません。

 

②カルシウム拮抗薬…亜硝酸剤と違った微小血管拡張作用が期待されています。

 

③ACE阻害薬およびARB…高血圧を伴い、かつカルシウム拮抗剤が効きにくい症例に期待します。

 

④エパデール…抗炎症作用と血液サラサラ効果に期待します。

 

漢方薬では、以下が有望視されています。

 

①半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)…本方は咽喉から胸のつまったような不快感に用いられる方剤です。狭心症の症状の一部に、頸部に何かが突き上げてくるような発作性の苦しさがありますが、そのような状態を気滞*とみなして適用しても良いと思います(*気滞…「気」の巡りが悪く停滞している状態のこと。東洋医学では、「気」には血行や体内の水の循環を良くしたり、栄養を全身に送ったりする働きがあると考えられている)。生薬としては気を巡らす半夏、生姜、厚朴、蘇葉(そよう)、ストレスをとる茯苓からなる。厚朴は冠状血管拡張があるといわれるようです。香蘇散(こうそさん)、柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)、桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)なども。

 

②桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)…元来は、過多月経、子宮筋腫や肩凝りといった婦人科領域の瘀血(おけつ)*による症状に使用します。血流改善を促す漢方薬であるという点を考えて、本証に試す価値はあると思います(*瘀血…東洋医学において、血液の流れが滞った状態のこと)。

 

③芎帰調血飲(きゅうきちょうけついん)…本方は産後の補養のための処方ですが、生薬の牡丹皮(ぼたんぴ)、益母草(やくもそう)、川芎(せんきゅう)、当帰(とうき)の血管拡張作用による鬱血をとる作用や香附子、烏薬の鎮痛作用などに期待します。

 

④冠心II号方(かんしんにごうほう)…本方は冠不全、狭心症に対して中国において国の威信をかけて作られた製剤。全て活血作用、瘀血を取る作用の生薬からできています。丹参、川芎には冠状動脈拡張作用があり、丹参、紅花には冠状動脈の血流増加作用、降香を含めるこれらの5薬には血栓形成抑制作用も言われています。残念ながら本薬は保険適応がありません。

 

原因がはっきりしない胸痛で悩まれている方は一度、この病気の可能性を考えて専門の医療機関にご相談されてはいかがでしょうか。

 

 

團 茂樹(だん しげき)

宇部内科小児科医院 院長

総合内科専門医

 

日本大学医学部附属病院で血液のガン治療に従事した後、自治医科大学へ国内留学、基礎研究分野の経験を経て大学病院や地方病院に勤務。その後、遺伝子研究の本場・カナダオンタリオ州立ガンセンターで遺伝子生物学に関する基礎研究に従事。帰国後、那須中央病院の内科部長を経て、宇部内科小児科医院副院長に就任。その後3年間、千代田漢方クリニック院長を兼任。

以来16年余り漢方治療を導入。2010年から現職。2015年に総合内科専門医を取得。総合臨床医として様々な症例に携わるとともに、臨床で培った経験や医療情報の中から選りすぐったアドバイスを行うダイエット法には定評がある。

著書に『糖尿病は炭水化物コントロールでよくなる』(2022年6月刊行、合同フォレスト)がある。

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