【医師が解説】病院で受けられる「花粉症の治療方法」各種 ~抗アレルギー剤から漢方薬まで。効果や副作用・注意点とは?

【医師が解説】病院で受けられる「花粉症の治療方法」各種 ~抗アレルギー剤から漢方薬まで。効果や副作用・注意点とは?
(※写真はイメージです/PIXTA)

日本気象協会「2023年 春の花粉飛散予測(第4報)」によると、今年は大量飛散が見込まれる地域が多く、ピークの時期も長くなる可能性があるとのことです。市販薬の選択肢は増えているものの、自己対処に限界を感じていたり、より自分に合った方法を探している方もいるでしょう。本稿では総合内科専門医・團茂樹氏(宇部内科小児科医院 院長)が、特に重症化しやすい人に向けて、医療機関で受けられる様々な「花粉症治療」を解説します。

アレルギー性鼻炎:一般的な治療法

まずは、多くの医療機関で行われているアレルギー性鼻炎の一般的治療法を見ていきましょう。

 

【Ⅰ. 抗アレルギー経口剤もしくはアレルギー関連経口剤】

ここで使用される薬品はその種類も多く、かつ、ほとんどの方がアレルギー性鼻炎の治療としてまず処方される薬剤のことです。

 

【Ⅱ. 点鼻薬】

鼻詰まりがひどいときや、妊婦さんで経口剤や注射を避けたいときに選択されます。ただし副鼻腔炎は除外診断*します(*除外診断…よく似た症状をもたらす別の病気が疑われる場合、それぞれの「疑われる病気」を診察や検査によって確認し、「この病気ではない」と除外していきます)。

 

ⅰ)血管収縮点鼻薬…連日使用としては7〜10日以内の使用にとどめること。それ以上続けると、むしろ悪化してしまいます。ひどいときの屯用と考えてください。

 

ⅱ)ステロイド入り点鼻薬…やや長丁場の花粉による鼻詰まりに使用します。

アレルギー性鼻炎:特殊な治療

次に、特殊な治療を見ていきましょう。

 

【I. 減感作療法(げんかんさりょうほう)】

体質改善の見込みはありますが、一定の通院期間を要し、かつ速効性はありません。例年辛い思いをされる方が、シーズン前から試みる選択肢の一つです。

 

減感作療法は専門医の治療を必要とします(特に以下のiとii)。

 

i)注射薬…種々のアレルギー症状を起こす物質(スギ花粉など)を、低濃度から少しずつ注射することにより患者さんの抵抗力をつけ、症状を出にくくする治療法です。

 

ii)舌下免疫療法…スギ花粉とダニアレルギーの二つに限ります。満5歳から治療可能です。

 

iii)ヒスタグロビン注射…ヒスタミンと免疫グロブリンを合わせた薬のことです。特定の抗原による減感作療法ではありません。週に1回から2回受診する必要があります。これを3週間続けることで、初めて効果が期待できます。副作用は少ないようです。

 

【II. ケナコルト筋肉注射】

これは速効性があり、治療費も安くてよく効きます。しかしこの治療には賛否両論があります。なぜなら中身が「長期に持続するステロイド」ですから。ケナコルト40mg筋注で、プレドニゾロン15mgを2~3週間内服することに相当するようです。これはかなりのステロイド量といえます。

 

ケナコルト筋肉注射では、糖尿病の悪化、消化性潰瘍、骨粗鬆症、血圧悪化、副腎皮質の機能低下、顔が膨れる(満月様顔貌)、月経異常、皮下出血、感染症になりやすいなど、一般的に言われているステロイドホルモンによる副作用に注意する必要があります。ちなみに、私はよほどでないと行いません。

 

ケナコルトの適応症に「アレルギー性鼻炎」とありますので、ちゃんと健康保険適応ではあります。主治医とよく相談してください。

 

※補足①

ずっと以前から、セレスタミン錠というステロイド剤と抗ヒスタミン剤の合剤があります。この薬の使用に関しても、漫然とした長期使用はケナコルト筋注における副作用と同様の副作用が危惧されます。点鼻薬として使われるステロイドホルモンはその安全性はほぼ担保されていますが、経口剤や注射薬としてのステロイド剤の使用に関しては、とりわけアレルギー性鼻炎の治療に関しては慎重になるべきとの意見が大半です。

 

※補足②

あくまでも私見としてですが、オーソドックスな治療を行い、かつ漢方薬も併用してもまだ難治性の場合、セレスタミン錠の改良として、プレドニン錠と眠気のこない第2世代の抗アレルギー剤を併用し、経口剤として短期治療をする選択肢はアリだと思っています。ただし、ずっと書いているステロイドの副作用とその効果を天秤にかけ、患者さんと話し合って決めることが大切です。幸い、漢方薬もうまく併用できているためか、このような難治例にはまだ遭遇していません。ただし、私自身は減感作療法や抗体注射薬の使用経験はありません。

 

【III. 生物学的製剤(抗体注射製剤)】

2020年より、重症・最重症のスギ花粉症に対して、2~5月に抗IgE抗体オマリズマブ(ゾレア®)を皮下注射する治療(保険適応)を行うことができるようになりました。

 

かなり高額になることと、適応に関しては専門家の知識が必要となることから、安易な治療ではありません。

 

【IV. 耳鼻科医の専門技術による治療】

特に鼻詰まりが極端にひどい人への治療方法です。

 

ⅰ)耳鼻科医による「下鼻甲介(かびこうかい)切除術」

 

ⅱ)レーザー治療(再発しやすい方もいるようです。)

アレルギー性鼻炎:漢方薬治療

i)小青竜湯(しょうせいりゅうとう)…アレルギー性鼻炎で一番有名な処方。薄い鼻水やくしゃみの多い方に使われます。

 

ii)苓甘姜味辛夏仁湯(りょうかんきょうみしんげにんとう)…小青竜湯から麻黄(まおう)などを取り除きアレンジしたもので、心疾患を有する高齢者や胃腸の弱い人に使われます。

 

iii)麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)…老人や冷え性で寒冷により鼻水、鼻詰まりがある人に使われます。

 

ⅳ)葛根湯加川芎辛夷(かっこんとうかせんきゅうしんい)…鼻詰まりに対しては、小青竜湯より効果あり。

 

v)辛夷清肺湯(しんいせいはいとう)…慢性的に続く鼻詰まりに使われます。鼻腔の炎症で熱感を伴う傾向があり、これを冷やす目的で、石膏(せっこう)・知母(ちも)・黄芩(おうごん)・山梔子(さんしし)のような清熱薬(せいねつやく)が含まれています。この点で、小青竜湯や葛根湯加川芎辛夷と適応病態が異なります。

 

vi)荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)…これも慢性的に続く鼻詰まりに試す価値アリです。熱を冷ます生薬が多く、辛夷清肺湯に似ています。

アレルギー性結膜炎の治療方法

自分にあった各種抗アレルギー経口薬を試し、効果が不十分であれば、各種抗アレルギー点眼薬を併用、さらに効果不十分であればステロイド入り点眼薬を使う、という流れが一般的だと考えます。

 

アレルギー性結膜炎は上記の組み合わせでほとんど事足りる印象です。

 

それでもダメでどうしようもない場合にケナコルト筋注はあり得るのかもしれませんが、緑内障へのリスクや上記のリスクを考え、本剤の使用に関しては慎重に検討してください。

アレルギー性結膜炎:あえて漢方薬を併用するなら…

i)清上防風湯(せいじょうぼうふうとう)…これは日本ではニキビ治療薬になっているようですが、身体上部、特に顔面の熱感、痒みを取る作用が期待される生薬が配合されているので、トライする価値アリです。

 

ii)越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)…涙が多く出るようなとき、点眼薬を使っても効果不十分な場合に試す価値アリです。実際に何人か経験しています。また、使用経験はありませんが、涙が多いのを浮腫と考えて、証*を見ながら、五苓散(ごれいさん)や防已黄耆湯(ぼういおうぎとう)などを試すのもアリかもしれません(*証…東洋医学における「患者さんの状態」)。

 

また、保険外ですが、「杞菊地黄丸(こぎくじおうがん)」という選択肢もあります。目に良いとされる甘菊花(かんきっか)や枸杞子(くこし)が入っているので、眼精疲労などに対しても試してみたい薬剤です。

 

花粉症の治療に関しては西洋薬の方が多くの先生にとって使いやすいことには違いありませんが、私は長年漢方薬を使ってきて、その相乗効果を認識しています。

 

今のネット社会はすごく便利です。一方で情報は玉石混交です。蘊蓄(うんちく)話でなく実際的か否かを見極めてください。そして、その情報が実験や動物における効果で話が終わっている場合は、「この情報には、ヒトでの効果を示すデータはないのだ」と心得ておきましょう。

 

 

團 茂樹(だん しげき)

宇部内科小児科医院 院長

総合内科専門医

 

日本大学医学部附属病院で血液のガン治療に従事した後、自治医科大学へ国内留学、基礎研究分野の経験を経て大学病院や地方病院に勤務。その後、遺伝子研究の本場・カナダオンタリオ州立ガンセンターで遺伝子生物学に関する基礎研究に従事。帰国後、那須中央病院の内科部長を経て、宇部内科小児科医院副院長に就任。その後3年間、千代田漢方クリニック院長を兼任。

以来16年余り漢方治療を導入。2010年から現職。2015年に総合内科専門医を取得。総合臨床医として様々な症例に携わるとともに、臨床で培った経験や医療情報の中から選りすぐったアドバイスを行うダイエット法には定評がある。

著書に『糖尿病は炭水化物コントロールでよくなる』(2022年6月刊行、合同フォレスト)がある。

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