(※写真はイメージです/PIXTA)

ロシアのウクライナ侵攻で、小麦生産・出荷が大打撃を受けました。しかし、ウクライナから小麦を輸入していない日本で、なぜ小麦の価格が上がるのでしょうか。ジャーナリストの田村秀男氏が著書『日本経済は再生できるか 「豊かな暮らし」を取り戻す最後の処方箋』(ワニブックスPLUS新書)で解説します。

原油など国際商品の高騰は投機マネーの仕業

■一物一価から「全物一相場」へ

 

先物がリードする国際商品市場は、「一物一価」ばかりでなく、「全物一相場」の法則を演出します。それは投機資金のなせる技です。

 

グラフ3―①は世界銀行が毎月発表している国際商品相場ですが、商品をエネルギーと非エネルギーである農産物、金属・鉱物に三分類しています。エネルギーは原油、天然ガス、石炭など、農産物は穀物など、金属・鉱物は鉄鉱石や金などがふくまれます。これらを左軸に据え、米連邦準備制度理事会(FRB)によるドル資金発行高を右軸で示しています。

 

まず一目瞭然なのは、多くの期間で3分類された商品相場が互いに連動していることです。

 

ここで、統計学でよく使われる相関係数を見てみます。相関係数はふたつの異なった変数の相性を表すもので、相関係数の算出はマイクロソフトの計算ソフト、エクセルが瞬時にしてくれます。最大値は1で完全相関と呼ばれます。これは新婚早々のあつあつカップルに譬えられます。相性が良いと見なされる水準は0.7以上です。

 

ただし、相関係数自体は因果関係を証明することはできません。違った者同士の相性がなぜ良いのか悪いのかについては、別途、合理的な説明が必要なのです。

 

まず、新型コロナウイルス・パンデミックが始まった2020年3月から2022年6月までの期間をとってみると、エネルギーとの相関係数は農産品が0.71、金属・鉱物が0.86にもなります。グラフの動きと合っていますね。

 

出典)田村秀男著『日本経済は再生できるか 「豊かな暮らし」を取り戻す最後の処方箋』(ワニブックス【PLUS】新書)より。
出典)田村秀男著『日本経済は再生できるか 「豊かな暮らし」を取り戻す最後の処方箋』(ワニブックス【PLUS】新書)より。

 

では、FRBによるドル資金発行高との相性はどうでしょうか。エネルギーは0.68とまずまずですね。農産物は0.71、金属・鉱物は0.85にもなります。

 

まとめて考えると、エネルギーとそうではない商品とは連動する度合いが高い。ドル資金発行量が増える、つまり米国の量的金融緩和が行われると、これらの商品はおしなべて上昇します。逆にドル資金発行が縮小に転じると、これらの相場がそろって下がり出すのです。

 

理由は簡単です。投機はカネがあり余っているからこそ盛んになります。先物投資の証拠金は極めて少なく済み、金融緩和時は低金利の巨額の資金を調達すればよいのです。

 

FRBはコロナ不況対策で2020年3月から量的緩和政策に転じました。米国債などを金融機関から大量に買い上げて、市場にドル資金を注入します。手元のドル資金が溢れるので、金融機関は資金を手っとり早く運用できる市場に投入します。その主な対象が先物市場の国際商品なのです。

 

投機勢力はドル金融の変化に敏感に反応します。FRBは2022年3月、量的緩和とゼロ金利政策を打ち切り、金融引き締めに転じました。ドル金利が上昇します。ドル金利は謂わばドルの価格です。すると金が主役の金属・鉱物相場が下がります。通貨と金は古代ローマ時代以来、歴史的に親和性が高い。

 

ドルは戦後のブレトンウッズ体制で唯一金にリンクされた通貨です。ドルの価格が上がれば、金を売ってドルの現預金をもてばよいというわけで、投機ファンドは金需要が下がると予想して、先物市場で金安に賭けるのです。その金に、ほかの金属や鉱物の相場が引っ張られます。

 

同じく、FRBが量的緩和政策をとったのは2008年9月のリーマン・ショックの後です。FRBは3度に分けて量的緩和政策を実施しましたが、とくに第一弾、第二弾の2011年半ばまでのあいだ、商品相場はそろって上昇していることがグラフからも見てとれます。

 

FRBが量的緩和第二弾を終了した2011年半ばにはエネルギー相場はピークアウトし、農産品と金属・鉱物相場は下落局面に転じました。そして量的緩和第三弾目の段階でも商品市況の軟調は続き、量的緩和を最終的に打ち切った2014年後半にはエネルギー相場が急落、非エネルギー相場の下落傾向も強くなりました。

 

グラフ3―②は新型コロナ・パンデミック後の石油輸出国機構(OPEC)プラスロシアの原油減産、ウクライナ戦争勃発、FRBの量的緩和とゼロ金利政策打ち切りまでのFRB資金発行と原油相場の推移に焦点を当てています。

 

原油減産後、原油相場がFRB資金増とともに上昇し、ロシア軍が侵攻を開始したあと急騰しています。しかし金融引き締めを開始した後、6月には下落したことを示しています。

 

このまま、高騰が収まるかどうかは断言できませんが、前出のグラフ3―①で非エネルギー相場の下落が物語るのは投機勢力の後退です。原油投機にもブレーキがかかったと思われます。こうした事実は、原油など国際商品の高騰が投機マネーの仕業であることを告げているのです。

 

出典)田村秀男著『日本経済は再生できるか 「豊かな暮らし」を取り戻す最後の処方箋』(ワニブックス【PLUS】新書)より。
出典)田村秀男著『日本経済は再生できるか 「豊かな暮らし」を取り戻す最後の処方箋』(ワニブックス【PLUS】新書)より。

 

田村 秀男
産経新聞特別記者、編集委員兼論説委員

 

 

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本連載は田村秀男氏の著書『日本経済は再生できるか 「豊かな暮らし」を取り戻す最後の処方箋』(ワニブックスPLUS新書)より一部を抜粋し、再編集したものです。

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