(※写真はイメージです/PIXTA)

人口は減り続け、資源も少ない日本。自動車産業を中心として日本企業がこれからグローバルで戦っていくためにはなにが必要なのでしょうか? 復権のヒントをみていきます。

 

固定観念を外し「ハードウエアの本質」を考える

高度経済成長期に増えたマイカー…釣り合わなくなってきた維持費と利便性

高度経済成長期には、特に郊外での生活にモビリティは必須であり、「買い物のために移動したい」「非日常を楽しみたい」「荷物を運びたい」といった様々な利用価値を提供してきた。

 

米国で荷台のあるピックアップトラックが普及したのも、仕事への移動だけではなく日曜大工や週末にまとめ買いした膨大な量の荷物、クリスマスツリーの生木なども乗せられる車が生活の中で必要なので、これらの課題を解決できる手段が一つしかないために、結果的にピックアップトラックの所有が選ばれてきた。

 

当時の若者世代では車を所有すること自体がステータスとなり、「彼女と2人きりでデートに出かけたい」という思いも手伝って、マイカーブームという形で所有自体が大きな価値にもなっていた。この所有の文化が依然として残っており、現在でも郊外を中心にマイカーのある生活が当たり前となっている。

 

一方で、例えば車社会の米国でも、多くの人が通勤にマイカーを利用しているものの、往復の平均1時間利用するだけでおよそ95%は駐車場に止まっており、車の稼働率は低いのである。その結果、狭いサンフランシスコでは駐車場不足となって駐車場代が2時間当たり30ドル以上と、車を置くだけのために高いコストを払っている。

 

そんな中で、ウーバーをはじめとするライドシェアリングサービスが急拡大し、話題になった。顧客が求める本質的な価値に対して、所有だけではない別の解決手段を提供したことが急拡大の要因と考えられる。

 

高級車を所有することこそが価値だった時代から、若者の価値や基準は「皆で移動することを楽しみたい」「より効率的にスマートに移動したい」という価値観の変遷への解を満たしている。

 

若者世代にとってはマイカーで運転して帰ることよりも、皆でお酒を飲んだ後に一緒に帰れるほうが、価値があると感じているわけである。このようなニーズを捉えたのが、ライドシェアサービスといえる。

 

今後のモビリティX時代の社会では、顧客の価値起点で破壊的なイノベーションを考案したものが生き残る。ユーザー価値から見て、過剰スペック、過剰な機能を作り込むのではなく、課題の本質(顧客価値)を考えるタイミングが来たと言えるのではないだろうか。

 

既存ビジネスの延長で価値を考えない…中国のシェア自転車がすごい理由

数年前、中国で自転車のシェアリングサービスが急拡大してブームになったが、その際、市販の自転車と異なる仕様の自転車が出ていたことに驚いたことがある。パンクしないタイヤが使われていたのだ。一般的なチューブに空気が入ったタイヤではなく、単にゴムに穴が開けられただけのエアレスタイヤだったのである。

 

空気が入っていないので普通の自転車よりも乗り心地が悪い。それにもかかわらず、なぜこのようなタイヤになっているかというと、自転車のシェアリングビジネスをするうえでハードウエアの稼働率に直結するパンクが大きな弱点になるからだ。大量のシェアリング自転車を街中に投入する中で、パンクした自転車を把握、回収、修理することは大変なコストである。このコストは利用料金を上げることで回収せざるを得ない。

 

中国の自転車シェアリング企業がすごいのは、シェア自転車で重要視されていた顧客の体験価値が「乗り心地」ではなく、「好きな時に移動できる」という機能や「安さ」であることを分析していた点である。

 

多くの企業は、既存ビジネスの延長で価値を考えてしまうので、乗り心地とパンクしないことと価格を抑えることを全部満たそうとしてしまう。空気の入ったタイヤのまま、四苦八苦してパンクしない技術を開発するかもしれない。

 

一方、中国の企業は顧客がシェアリング自転車に乗り心地をそこまで求めていないことに気付いたのである。稼働率を上げるために自転車のメンテナンスフリーを追求したことは、ロボタクシー時代の自動車に何が求められているかを考える際にも参考になる部分があるだろう。

 

自動車のシェアリングという新しい代替サービスに求められるハードウエアとは、一体どんなものだろうか。

 

シェアリングサービスの稼働率を上げるための考え方として、壊れて動かない事態を最小限にしたいので、例えば自家用車のような5年以上保証する高い品質ではなく、レンタカーのように2〜3年で置き換える前提で最低限10万㎞を走り続けられる車を作る考え方もあるかもしれない。その場合は経年劣化の側面より部材コストを下げることを優先できるのではないだろうか。

 

また、都市部でのロボタクシーに求められるハードウエアと考えると、例えばサンフランシスコでの車の平均速度は時速20㎞程度ともいわれるほどであり、高速走行機能はあまり必要とされない。

 

今後、低速運転専用エリアなどができた場合には、自動運転技術としても高度なライダーやセンサーが不要となり、壊れにくい低速自動運転カートのようなもので十分となる可能性もある。

 

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※本連載は、木村将之氏、森俊彦氏、下田裕和氏の共著『モビリティX シリコンバレーで見えた2030年の自動車産業 DX、SXの誤解と本質』(日経BP)より一部を抜粋・再編集したものです。

モビリティX シリコンバレーで見えた2030年の自動車産業 DX、SXの誤解と本質

モビリティX シリコンバレーで見えた2030年の自動車産業 DX、SXの誤解と本質

木村 将之、森 俊彦、下田 裕和

日経BP

2030年の自動車産業を占う新キーワード「モビリティX」――。 「100年に1度」といわれる大変革期にある自動車産業は、単なるデジタル化や脱炭素化を目指した「トランスフォーメーション(DX、SX)」ではもう勝てない。今後…

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