アメリカなら平均年収「約1300万円」だが…日本の薬剤師、“6年かけて大学卒業”の割に「報われない給与額」

アメリカなら平均年収「約1300万円」だが…日本の薬剤師、“6年かけて大学卒業”の割に「報われない給与額」
(※写真はイメージです/PIXTA)

ピッキング作業をロボットにまかせ、薬剤師を服薬指導等の対人業務に専念させる「ロボット薬局」。開発者の渡部正之氏は、規制改革推進会議が目指す調剤業務の効率化・対人業務の充実化を実現し、Amazon薬局に対抗するためには、日本中の薬局でロボット化、ICT化を進めることが必要不可欠だといいます。本稿では、実際に現場で働く薬剤師の視点から、ロボットを導入するメリットを見ていきましょう。

「ロボット導入の有無」が招いた、日米の給与格差

日本の薬剤師の年収は約562万円です(厚生労働省「令和元年賃金構造基本統計調査」)。これは全薬剤師の平均年収ですから、調剤薬局の薬剤師に限って見るともう少し低いかと思います。これに対してアメリカでは薬剤師の2020年の平均年収は約1300万円(2020年12月末時点の円換算)と日本の薬剤師の年収の約2倍にも上ります(U.S.News & World Report “U.S. News Best Jobs Rankings”)。

 

これはある意味で当然です。アメリカの人口は約3億3000万人で、日本の人口約1億2500万人の約2.6倍になります。これに対して薬剤師の人数はアメリカも日本もどちらも約32万人とほとんど変わりません。

 

このように人口ボリュームに対して薬剤師の人数が少ないところを、アメリカはファーマシーテクニシャンを活用することで補っています。アメリカには2020年時点で薬剤師数を上回る約42万人のファーマシーテクニシャンがいて(U.S. BUREAU OF LABORSTATISTICS “Occupational Outlook Handbook”)、薬剤師とファーマシーテクニシャンを合わせると約74万人となります。これは日本の薬剤師数の2.3倍です。

 

アメリカでは日本の約2.6倍の人口に対する薬物療法を、2.3倍の有資格者(うち薬剤師はわずか4割、調剤補助者は6割)でカバーしているのです。そしてそのため、人数の少ない薬剤師の年収は高く設定されています。なぜそれが可能かというとロボットをどんどん導入して効率化を進めているからです。

 

一方で日本ではICT化やロボット化をいっさい進めずに、反対に薬剤師の数を増やしていきました。その結果薬剤師の数が増えていき、反比例するかのように年収は下がってしまったのです。

「ロボット導入=薬剤師の仕事が奪われる」という誤解

多くの薬剤師は「ロボットが調剤をする」と言うと「自分たちの仕事がなくなってしまうのでは」と考えるかもしれません。しかしそれは反対です。ロボットを導入しなかったことによって、薬剤師は自分たちの地位を高め、年収を上げるチャンスを失ってしまったのです。

 

多くの経営者は今でもファーマシーテクニシャンを増やし、反対に薬剤師の数を減らすことによって経営効率を上げようと考えています。しかし、薬剤師はすでに32万人もいるため、マンパワーは十分といえます。

 

アメリカは薬剤師数が少ないところへそれを補うためにファーマシーテクニシャンを導入しました。しかし、すでに薬剤師のマンパワーが十分な日本においてファーマシーテクニシャンを導入すれば、むしろそのことが薬剤師のリストラにつながってしまいます。薬剤師の仕事を奪うのは、ロボットではありません。それはファーマシーテクニシャンなのです。

 

こう考えていくと、日本の薬剤師がすべきことはただ1つです。業務を効率化するための方策として、ファーマシーテクニシャンの雇用ではなくロボットの導入を経営者に提案することです。

 

現状の薬剤師のマンパワーで、なおかつ欧米並みに調剤の自動化に成功すれば、日本の薬剤師の職能レベルは間違いなく世界でもナンバー1になります。ロボット化によって対人業務に割く時間が増えるため、容易に職能レベルを上げることができると私は考えています。

 

テクノロジーは人間から仕事を奪うものでは決してありません。それどころかより人間らしい仕事を与え、より生活を豊かにしてくれるものです。ロボットの活用によって対人業務などに注力できれば、薬剤師の職能や社会的地位、やりがいはアップします。さらに、今のままの人数で新たに薬剤師に求められるようになった対人業務に対応し薬局全体の収益を上げれば、年収は自ずと上がるはずなのです。

従業員のことを考えればロボット導入が最適解になる

従業員のことを考えている経営者こそ、ロボット薬局を導入すべきです。ロボットは薬剤師の労働環境を大きく改善し、もっとやりがいのある仕事と向き合うゆとりを生み出すからです。

 

日本では高度成長期以降、電気冷蔵庫や電気洗濯機、電気掃除機、電子レンジなど便利な家電が次々と登場してきました。高度成長期を過ぎても家電の開発は進み続け、現在では自動食器洗い機やロボット掃除機などが家庭にあることが一般的になりました。そしてこうした便利家電が、家族のQOLを大きく向上させることにもつながっています。私の身近でも「ロボット掃除機を1台買っただけで、家事が驚くほど楽になった」という話はいくらでも耳にします。

 

これと同じことが薬局にもいえるのです。従業員のことを本当に考えている経営者ならば、薬剤師を単純作業にしばりつけることなどすべきではありません。良心的な経営者であれば一刻も早く薬剤師を調剤業務から解き放ち、病院やクリニックなどの医療現場や患者宅、そして地域で薬剤師が職能を発揮できるようにすべきです。

 

 

渡部 正之

株式会社メディカルユアーズ 代表取締役社長、薬剤師

 

兵庫県神戸市出身。薬学部卒業後、製薬会社のMR、薬局薬剤師を経て、2011年にメディカルユアーズを創業。2019年3月に日本初のロボット薬局(自動入庫払出装置)を大阪梅田で開発した。薬局業界の旧態依然とした体質に危機感をもち、ロボット、ICT、AIを用いた自動調剤技術の研究開発に積極的に取り組むなど異端児として新たな展開を行う。

薬剤師の本来の職能発揮を提唱し、職能レベルの向上・職域拡大、働きやすい環境づくりに力を注いでいる。

 

※本連載は、渡部正之氏の著書『ロボット薬局 テクノロジー×薬剤師による薬局業界の生き残り戦略』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

ロボット薬局 テクノロジー×薬剤師による薬局業界の生き残り戦略

ロボット薬局 テクノロジー×薬剤師による薬局業界の生き残り戦略

渡部 正之

幻冬舎メディアコンサルティング

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